キンカン(読み)きんかん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キンカン」の意味・わかりやすい解説

キンカン
きんかん / 金柑
金橘
[学] Fortunella

ミカン科(APG分類:ミカン科)の常緑低木。キンカン属の総称。ミカン属Citrusに含むこともある。中国原産。枝は細く密生し、葉は小さく葉脈は不明瞭(ふめいりょう)で翼葉はほとんどない。日本では数種が栽培される。春、夏、秋の3回に開花結実する性質があるが、7月と9、10月に開花するものが多い。果実は球形または楕円(だえん)形で、果面は滑らかで光沢があり、果肉の室数(袋)は6、7個までである。1984年(昭和59)当時の生産量は1500トン前後で主産地は和歌山高知宮崎鹿児島の各県であったが、その後徐々に生産量は増加し2015年(平成27)では総生産量3784トン、主産地は宮崎県が全体の約71%を占め、ついで鹿児島県、熊本県となっている。よく栽培されるものに次の5種がある。ナガミ(長実)キンカンF. margarita Swingleは樹勢が強く、果実は長径3センチメートル以上の楕円形で十数グラムあり、酸味が強い。ニンポウ(寧波)キンカンF. crassifolia Swingleは果実は径3センチメートルほどの球形ないし短楕円形で十数グラムあり、酸味が少なく品質はよい。明和(めいわ)年間(1764~1772)に現在の静岡市清水区三保(みほ)で初めて栽培されたためメイワ(明和)キンカンともいう。マルミ(丸実)キンカンF. japonica Swingleは矮性(わいせい)で果実は丸く径2センチメートルほどで7グラム前後、酸味が強く栽培は少ない。フクシュウ(福州)キンカンF. obovata Tanakaはチョウジュ(長寿)キンカンともいい、果実は卵形で、果頂はくぼみ、約20グラム。キンズ(金豆)F. hindsii Swingleはマメキンカン、ヒメキンカンともいい、木、葉、果実ともに小さく、果肉の袋は種子で満たされ、食用には不向きで、盆栽として観賞される。本種には二倍体(2n=18)と四倍体(2n=36)とがある。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

利用

果皮は3~4ミリメートルと厚く、甘味と淡い苦味があり、芳香に富む。微黄色の結晶性配糖体であるヘスペリジンhesperidinC50H60O27を含み、血管を強くする作用をもつ。果肉、果皮ともにビタミンと多くの無機質を含み、とくに果皮にはカロチンとビタミンCが多い。熟したものを皮ごと食べるのがよいが、砂糖漬けマーマレードジャムにも加工。マーマレードやジャムをつくるには、まず果実を米のとぎ汁に入れ、数分ゆでたあと水でさらし、十数分あく抜きをする。これを切って種子を除き、生果時の70%前後の重量砂糖を加えて、とろ火で煮つめる。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「キンカン」の意味・わかりやすい解説

キンカン (金柑)
kumquat

ヒメタチバナともいうミカン科キンカン属Fortunellaの常緑低木で,小粒の実をつけるかんきつ類。皮は滑らかで甘いが果肉は酸味が強い。生食,砂糖漬けにして食べたり,煎じて風邪薬にもされる。また鉢物,盆栽,植木としても利用される。

 枝にとげを多く生じるもの(マルキンカン,マメキンカン)もあるが,それ以外はとげなしといってよい。葉は小さく網脈は不明りょう。花は小さく白色で5弁。初夏から初秋に2~3回開花し,晩秋から果実が成熟し始める。果皮は橙色~橙黄色。子室は種類により異なるが4~8室。種子数は少ない。胚は濃緑色でナガキンカンを除き多胚性。種類は果実の大きさや形をおもな特徴として区別される。数種の栽培種が分化しており,おもなものに,果実が球形で小果(4~5g)のマルキンカンF.japonica(Thunb.)Swingle,果実が名のように楕円形となるナガキンカンF.margarita(Lour.)Swingle,球形で10g以上の果実をつけるネイハキンカン(ニンポウキンカンともいう)F.crassifolia Swingle,小さな1g前後の球形の果実をつけ,食べられないが盆栽などにされるマメキンカンF.hindsii(Champ.)Swingle,ミカン属との雑種といわれ大果(約20g)で鉢物によくされるチョウジュキンカンF.ovovata Tanakaがある。いずれも中国原産である。マルキンカンが日本に最も早く伝来した(14世紀ころ)。ナガキンカンは江戸時代前期に日本に伝わり,ヨーロッパには1846年にイギリス人のフォーチュンRobert Fortuneが導入,紹介した。間もなくアメリカに伝わり,後にマルキンカン(1885),ネイハキンカン,マメキンカン(1910-12)も同国に導入された。生果販売用としてはネイハキンカンが栽培される。宮崎,和歌山,鹿児島,高知が主産県で,生産量は約3300t。採収労力と冬季の果実の凍結,鳥害防止が栽培上の問題点である。
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食の医学館 「キンカン」の解説

キンカン

《栄養と働き&調理のポイント》


 キンカンは中国原産のミカン科のくだもので、ミカンの種類のなかではいちばん小さく、大きくても1個20gくらいです。キンカンの皮はやわらかくて甘みと香気があるので、柑橘類(かんきつるい)としてはめずらしく、皮ごと食べます。この皮に実を上回る栄養分が含まれています。
○栄養成分としての働き
 キンカンには100gで1日の所要量の半分近くを賄えるほどのビタミンCと、ビタミンE、カロテン、そしてヘスペリジンというフラボノイド(ビタミンP)を含んでいます。ビタミンCはコラーゲン生成に働き、血管や粘膜(ねんまく)を強くしますし、ヘスペリジンはビタミンCの吸収を高め、毛細血管を強化します。
 これらの相乗作用により、かぜ、動脈硬化、高血圧、歯周病、血管の老化防止に効果を発揮するのです。また、骨や歯を丈夫にするカルシウムは生の果実ではもっとも多く、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防に役立ちます。さらにペクチンやクエン酸などの有機酸により、胃腸の働きをととのえます。
○漢方的な働き
 もともと薬として入ってきたくだもので、のどの炎症を鎮める作用があり、扁桃炎(へんとうえん)やたん、せきをともなうかぜの妙薬として、広く知られています。キンカンは生で食べるほか、蜜煮や砂糖漬け、果実酒、マーマレードにして利用します。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「キンカン」の解説

キンカン

 [Fortunella spp.].ナツメキンカンともいう.金柑と書く.ムクロジ目ミカン科キンカン属の常緑果樹.果実を食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のキンカンの言及

【かんきつ類(柑橘類)】より


[分類]
 かんきつ類とされるものは,ミカン科ミカン亜科に所属する多数の種で,スウィングルW.T.Swingleの分類による〈真正カンキツ類〉の6属または田中長三郎の分類による〈カンキツ連〉の4属に所属するものである。しかし,通常はカラタチPoncirusキンカンFortunellaミカン属(カンキツ属ともいう)Citrusに含まれるものをかんきつ類という。 カラタチ属はカラタチP.trifoliata Raf.1種だけを含む。…

※「キンカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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