人体や食品に含まれる元素のうち、酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)以外の元素の総称で、ミネラルmineralともいう。かつては灰分(かいぶん)ともよばれた。人体には約60種の元素が含まれ、その96%近くが前記の四つで占められ、これらを主要元素という。残りが無機質とよばれるもので、全体で4%にしかすぎない。無機質のなかでも比較的量の多いカルシウム(Ca)、リン(P)、カリウム(K)、硫黄(いおう)(S)、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)を主要無機質という。そのほかを微量無機質といい、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ヨウ素(I)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、セレン(Se)、クロム(Cr)、フッ素(F)、ホウ素(B)、ヒ素(As)、スズ(Sn)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などがある。
[河野友美・山口米子]
無機質の生理上の機能については、Ca、P、Fe、Na、Kなどの栄養素として重要なものは、代謝、作用、欠乏および過剰症などが究明されている。しかし、他の多くの元素については不明な点が多い。無機質の機能はそれぞれが相互的に関係し、また、タンパク質など他の栄養素にも影響される。無機質一般の機能を要約すると、(1)体組織を構成する。Ca、P、Mgなどがその例で、とくに骨や歯の無機成分として重要である。(2)他の成分と結合して、生体の構成成分となる。血色素を構成するFe、細胞膜や細胞質を構成するP、Sなど。(3)補酵素として酵素反応を活性化する。Cu、Zn、Fe、Mgなど。(4)体液の恒常性(分量、浸透圧や酸塩基平衡)を調節する。Na、Kなど。(5)筋肉や神経の収縮、興奮性を調節する。Na、K、Ca、Mgなど。そのほか、各元素が多くの生理機能に関係している。
[河野友美・山口米子]
無機質を含まない食品はない。無機質の種類によっては、通常の食事で十分に補給できるものと、かなり意識して食品を選び、積極的にとらないと不足症状の出るもの(Ca、Fe)、とり方をコントロールしないと元素間でバランスが崩れたり(NaとK、CaとP)、過剰症のあるもの(Na)などがある。人体に必須(ひっす)である無機質は16種あり、そのうち、栄養素として食事からとるべき量については、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)により、目安量や推奨量、および過剰摂取による健康障害のリスクを下げるための上限量などが設定されている。
日本人に不足しがちな無機質としてはCaとFeがある。Caの給源は近年になって牛乳と乳製品が1位を占めているが、国際的にみて牛乳や乳製品のとり方が少なく、野菜類、豆類、魚貝類などからのCaにかなり依存している。Feについては、とくに女性の貧血が問題となっている。食品添加物や食品の汚染により、また、健康食品やサプリメントの利用により特定の無機元素が体内に取り込まれ、栄養上、病理上問題となることがある。これらの元素は、食品に含まれているだけに問題が大きい。
[河野友美・山口米子]
『長谷川喜代三著『食物・栄養科学シリーズ19 食品分析』(1993・培風館)』▽『木村修一監修、安部文敏・榎本秀一著『やさしい からだとミネラルの知識』(1998・オーム社)』▽『ネスレ科学振興会監修、和田昭允・池原森男・矢野俊正編『食とミネラル――21世紀に向けて食を考える』(2001・学会センター関西、学会出版センター発売)』▽『福井透編著『症状改善のためのビタミン・ミネラルの摂り方』(2002・丸善)』▽『糸川嘉則編『ミネラルの事典』(2003・朝倉書店)』▽『菱田明・佐々木敏監修『日本人の食事摂取基準2015年版――厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書』(2014・第一出版)』
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【栄養素】
食物の成分のうち,生体内にとり入れられて,生理的機能を円滑にするものを栄養素という。栄養素としては,炭水化物,脂肪,タンパク質,無機質およびビタミン類がある。
[炭水化物]
炭水化物は,炭素,水素,酸素の3元素からなり,水素と酸素の割合が2:1になっているものをいう。…
※「無機質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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