1913年から25年の間にイギリスで展開された社会主義思想の一つ。この思想の形成には、中世の牧歌的社会を理想として工業文明や資本主義を批判するJ・ラスキンとW・モリスの社会的ロマン主義や、教会や労働組合を国家と同格の法人格として認めることを要求するJ・N・フィッギスの国家主権否認論や、フランスのサンジカリズム、そしてマルクス主義の影響がみられる。1906年成立した労働党の議会活動が期待したほどの成果をあげず、そのうえに、同党の母体をなす労働組合会議が第一次世界大戦前後にかけてストライキを自制するなど一般組合員や下部単産組合の要求を抑える動きをしたのに反発した一部単産組合やショップ・スチュワード(非公認職場委員)の間にギルド社会主義を支持するものが現れて、それは一時期大きな影響力をもつに至った。
その理論的代表者はG・D・H・コールである。それは、フェビアニズムを批判し、階級闘争を所与の事実として認め、賃金制度の廃止、労働組合の構造の職能別組織から産業別組織への再編成、産業別組合によって生産機能を失った資本家から産業支配権を取り戻すことを要求した。そしてさらに、自治権をもつ職能別に組織された団体(ギルド)、すなわち労働組合、消費組合、教会などの多元的機能集団を基礎に再編成されたナショナル・コミューンによる、現存の階級国家の克服を主張した。その際、サンジカリズムと異なる点は、生産者ギルドとしての労働組合のみならず、他のギルドも社会の基本的構成要素として承認し、国家、すなわちナショナル・コミューンにも各ギルド間の調整、秩序の維持、財政・通貨政策、防衛、外交などの機能を認めている点である。このギルド社会主義は第一次世界大戦後の安定期にその意義を失ったが、生産者たる労働者の産業自治の思想は、ドイツの共同決定法やフランス社会党の労働者自主管理論などに影響を与えている。
[安 世舟]
ラスキン,モリスの資本主義批判を継承し,フェビアン協会の画一的集産主義と社会立法の下での官僚国家の危険とに反発したイギリスの社会思想,運動。理想主義的傾向が強く,1900年代初頭の知識層の間で支持を得た。労働の質と良心的生産者の保護を説くA.J.ペンティの《ギルドの復興》(1906)に触発され,A.R.オレージ編集《新時代》紙上のS.G.ホブソンの賃金制批判の論文(1912)が引金となり,G.D.H.コールやW.メラーら知識人が中心となって1915年全国ギルド連盟が発足する。コールは《労働世界》(1913)や《ギルド社会主義再論》(1920)などの著書で労働組合による産業の〈管理権の蚕食〉,組合と国家の協力による新社会創造,生産者ギルドと消費者利益を代表する議会その他の機関とからなる多元的国家を提唱。全国建築ギルド(1920-23)などの活動もあったが,産業における直接民主制の理想は実現することなく終わった。
執筆者:都築 忠七
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第一次世界大戦の前後にイギリスでコール(G.D.H)らによって提唱された社会主義理論。労働者の自治組織たるギルドが各産業を管理し,それらの全国組織に国家機能を委ねようとした。一時支持者を集めたが,以後急速に凋落した。
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