クモノスカビ(その他表記)Rhizopus

改訂新版 世界大百科事典 「クモノスカビ」の意味・わかりやすい解説

クモノスカビ
Rhizopus

接合菌類ケカビ科のカビ菌糸クモの巣状に生えひろがり,アーチ状につるを出し,このつるがイチゴ匍匐(ほふく)枝のようにところどころの物につき,そこに根のような短い枝を出して付着する。根状のところから空中胞子囊柄がのび上がり,先がふくらんで無数の胞子をふくんだ青黒色の胞子囊となる。雌雄異株の種類と同株の種類があり,菌糸間に接合により接合胞子ができる。代表種にR.stolonifer(Ehr.ex Fr.)Lind(=R.nigricans Ehrenberg),R.arhizus Fischer,R.sexualis(Smith)Callen(雌雄同株)などがあり,ケカビと同様に自然界に広く分布している。デンプン質に富んだ食品,果実などに多く発生し,デンプン糖化力の強いものはアルコール製造に使用される。ケカビに似ているが,根状の分枝菌糸(仮根)を出すことが異なり,イチゴのように物に根を下ろしながら生えひろがるので,全体がクモの巣状に盛り上がることが特徴。アジア地域においてとくに応用微生物工業に使用される。

 “Chinese yeast”の主要菌,アルコール製造におけるアミロ法の主要菌であり,納豆に似たインドネシアのテンペtempeh製造にも使われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クモノスカビ」の意味・わかりやすい解説

クモノスカビ
くものすかび
[学] Rhizopus

接合菌類、ケカビ目に属するカビ。自然界に広く分布し、肉眼的外観がくもの巣状を呈するのでこの名がある。菌糸は食品などの基質の表面をイチゴの匍匐枝(ほふくし)のように伸長し、基質との接点に仮根を下ろすためにハイカビともいう。菌叢(きんそう)は初め雪白色であるが、のちに灰白色となる。胞子嚢(ほうしのう)柄は仮根を下ろした菌糸の節から1本または数本生じ、先端に球状の胞子嚢を着生する。胞子嚢は初め白色、のち黒色となり、多数の胞子嚢胞子を包んでいる。成熟すると胞子嚢は裂け、空中に胞子が飛散する。有性生殖は接合胞子によって行われる。雌雄異株が普通であるが、同株のものもある。この属のカビはアミロ発酵有機酸発酵などに利用される。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クモノスカビ」の意味・わかりやすい解説

クモノスカビ(蜘蛛の巣黴)
クモノスカビ
Rhizopus nigricans

ハイカビともいう。藻菌類ケカビ目ケカビ科リゾープス属。温暖多湿の季節に,果物,野菜などに発生するのがみられるが,平素は土壌中に普通に生息すると考えてよい。基質上の菌糸はところどころに仮根をもっていて,植物の匍匐枝のように伸びるので,外見がクモの巣のようにみえる。菌糸の仮根のある節からは,1本あるいは数本の枝を生じ,その頂端に球形の胞子嚢ができる。成熟した菌糸,および胞子嚢は黒色。胞子嚢はくずれて胞子を四散し,あとにまんじゅう形の柱軸を残す。有性生殖では,配偶子嚢の接合により,厚膜におおわれた接合子を生じる。

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百科事典マイペディア 「クモノスカビ」の意味・わかりやすい解説

クモノスカビ

接合菌類ケカビ科のカビ。有機物の多い土の表面,植物体などにつく。クモの巣状に広がる菌糸の所々に節(ふし)があり,そこから仮根と,先端に球状,黒褐色の胞子嚢をつけた数本の子嚢柄をつける。菌糸間に接合により接合胞子ができる。この属のカビは,アミロ法によるアルコール製造や有機酸発酵などに利用される。

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栄養・生化学辞典 「クモノスカビ」の解説

クモノスカビ

 リゾプス属ともいう.接合菌類の一種.食品を劣化させるが,強力なアミラーゼを生産するのでそれをアルコール製造などに利用する.

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