外部から与えられる刺激により物質の色が変化する現象をクロミズム(または、クロモトロピズム)といい、クロミズムを示す物質をクロミック材料、またはクロミック物質という。
外部刺激として、そもそもは、熱、光、圧力などの物理的なエネルギーに限定してクロミズムの用語が定義された。サーモクロミズム(熱)、フォトクロミズム(光)、ピエゾクロミズム(圧力)などの用語がそれにあたる。酸・塩基などの刺激に基づく現象を、ハロクロミズム、イオノクロミズム、アシディクロミズムなどとよび、従来の指示薬(インジケーター)も広義のクロミック材料であるとして扱われる場合も多い。このため、外部刺激を物理的エネルギーに限定することは無意味となる傾向にある。
国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)の報告(2001)などによれば、クロミズムには、前記のほかに次のようなものがある。エレクトロクロミズム(電気)、ソルバトクロミズム(溶媒の極性や屈折率等)、トリボクロミズム(摩擦)、キロクロミズム(偏光照射などによって、ジアステレオマーの存在比が変化し、偏光面の回転角が変化する現象。吸収スペクトルは不変だが、ほかのキラルな媒質が共存すると、スペクトル変化が観察される)、ジアステレオフォトクロミズム、ガスクロミズム(気体、とくに酸素と水素の酸化還元redox系)、ベイポクロミズム(主として蒸気の極性)、カソードクロミズム(陰極線)、ラジオクロミズム(放射線、とくにγ(ガンマ)線)、マグネトクロミズム(磁性)、クリスタロクロミズム(結晶構造)などである。
「サーモ――」「フォト――」など、前述した種々の接頭語をかぶせたクロミック材料を、サーモクロミック色素、フォトクロミック色素などとよぶ。熱や光の刺激で着色し、刺激を取り去ると消色する可逆系が多い。
エレクトロクロミック色素は電圧をかけると着色し、これを外しても色が消えないメモリー性をもつ。還元型(陽極反応)で発色する化合物として、ビオロゲン(4,4'-ビピリジニウム誘導体)がある(陰極反応)発色系としては、フェロセンやフェノチアジン類が知られている。エレクトロクロミック色素の応用分野としては、省電力のディスプレー装置などが期待されている。
)。置換基R、R'を変化させたり、ポリマー化させたりすることにより赤紫、緑、青などの発色種が得られる。ジアセチルビフェニル、テレフタル酸ジメチル、酸化タングステン(WO3)なども還元型発色系である。酸化型(ソルバトクロミック色素の代表例をエタノール水溶液中では橙(だいだい)、メタノール(CH3OH)中では赤、エタノール(C2H5OH)では紫、アセトン(CH3COCH3)では青、ジクロロメタン(CH2Cl2)では青緑、ベンゼン(C6H6)では黄緑を呈する。媒質の極性増加により、化学構造を変化させることなく吸収が長波長にシフトして変色する。ハロソルバトクロミック色素ともよばれる。ソルバトクロミック色素としては、このほか、ニッケル錯体[Ni(acac)(tmen)]BPh4-(acacはアセチルアセトナトacetylacetonato、tmenはテトラメチレンジアミンtetramethylenediamineの略)がある。身近なものでは、シリカゲル(乾燥剤)の色変化がある。添加された塩化コバルト(Ⅱ)が無水物[CoCl4]2-では深青色、六水和物[Co(H2O)6]2+ではピンク色に変わることを利用して、乾燥能力の判定を色で示す。
に示す。この化合物の性質は、1960年代に調べられた。25%[時田澄男]
『前田候子著「クロモトロピズム――ホトクロミズム・サーモクロミズム・ピエゾクロミズム・エレクトロクロミズム」(『有機合成化学協会誌』44巻5号所収・1986・有機合成化学協会)』▽『長村利彦著『化学者のための光科学』(2011・講談社)』▽『Henri Bouas-Laurent, Heinz DürrIUPAC Technical Report ; Organic Photochromism(in “Pure and Applied Chemistry Vol. 73, No. 4,” pp. 639-665, 2001, IUPAC)』
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