改訂新版 世界大百科事典 「ケイ皮酸」の意味・わかりやすい解説
ケイ(桂)皮酸 (けいひさん)
cinnamic acid
芳香族不飽和カルボン酸の代表で,最初ニッケイの樹皮よりとれるケイ皮油から見いだされたためにこの名がある(ラテン語cinnamonはニッケイの意)。β-フェニルアクリル酸ともいう。分子内に二重結合を含むため,シス,トランスの異性体が存在するが,天然には安定なトランス型で存在し,単にケイ皮酸といえばふつうトランス型をさす。シス型はアロケイ皮酸と呼ばれるが,不安定でトランス型に変わりやすい。
ケイ皮油以外にもトルーバルサム,ペルーバルサム,安息香,蘇合香油やタイワンカエデの樹脂中に遊離またはエステルとして存在する。弱い芳香をもつ無色の針状結晶で,融点135~136℃,沸点300℃。エチルアルコール,エーテル,ベンゼン,アセトン,酢酸等に易溶,水に難溶である。酢酸ナトリウムの存在下に,ベンズアルデヒドと無水酢酸を縮合させて合成する(パーキン反応)。メチルエステル,エチルエステル,ベンジルエステルなど,おもにエステルの形で化粧品やセッケンの香料および医薬品として用いられる。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報