ケカビ(その他表記)Mucor

改訂新版 世界大百科事典 「ケカビ」の意味・わかりやすい解説

ケカビ
Mucor

接合菌類カビ科の代表的なカビ。菌糸から長胞子囊柄が2~3cmぐらいまで伸び上がり,先に灰色~黒色褐色の球状の胞子囊をつける。胞子囊中に無数の胞子がある。全体がけばだって見えるので,ケカビと名づけられた。雌雄異株と同株があり,有性生殖をして黒色で金平糖状の接合胞子をつくる。米飯,餅,パンなどデンプン質の食品に普通にみられるが,動物の糞にもよく発生する。腐生的であり,デンプン糖化力が強いものはアルコール製造工業に利用され,とくにアジア地域ではコーリャン酒の麯子(きよくし)製造など醸造微生物の一つとなっている。発育の温度範囲は広く,20~30℃が一般に適するが,40℃で盛んに生育する種類もある。M.hiemalis Wehmer,M.mucedo Brefeld(両者とも雌雄異株)などが普通に多い種で,世界中に広く分布している。外見がまっすぐにけばだつ点で,近縁のユミケカビAbsidiaクモノスカビなどと区別しやすい。現在60種余りが知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケカビ」の意味・わかりやすい解説

ケカビ
けかび
[学] Mucor

接合菌類、ケカビ目に属するカビ。ムコールMucorの語がラテン語でカビを意味するように、カビの代表ともいえる群である。自然界の至る所に分布するが、とくにデンプン質の食品や草食動物の糞(ふん)の上によく繁殖し、150種ほどが知られている。菌糸は基物の内外に広がって伸長する。匍匐(ほふく)菌糸は分岐するが隔壁はなく、気中菌糸は毛髪状で高さ数センチメートルにもなる。気中菌糸は直立し、胞子嚢(のう)柄となるが、分岐するものと、しないものがある。胞子嚢柄の先端には胞子嚢が形成され、中に胞子嚢胞子が含まれる。胞子嚢の外膜は薄く、成熟したときに胞子が分散されるが、外膜の外れ方には、溶ける場合と裂ける場合がある。胞子嚢胞子が分散したあとには、中軸が胞子嚢柄の先端に残るが、中軸は胞子嚢柄が胞子嚢中に突出した部分で、球形ないしは卵形である。有性生殖は接合胞子の形成によるが、雌雄異株のものが多い。この属のカビは、乳腐や有機酸の製造などに利用される。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケカビ」の意味・わかりやすい解説

ケカビ(毛黴)
ケカビ
Mucor; pin mold

接合菌類ケカビ目の1属。この属には約 60種近い種がある。炭水化物蛋白質に富んだ基質に生えるので,草食・雑食動物の糞,デンプン性の貯蔵食品などに発生しやすい。土壌や腐植質からは容易に分離できる。概して菌糸が毛のように立上がり,頂端に球形の胞子嚢をつける。立上がった菌糸は,初めはすべて無色,古くなると褐色になるものもある。胞子嚢は熟すると黒色になり,その膜は水滴に溶けるか,または裂けて,無数の胞子を外に出す。前者は小動物の体に付着したり,水流で散らされ,後者は風によってばらまかれる。胞子嚢のくずれたあとには,その柄の頂端に柱軸と称する構造が残る。その形は卵形,楕円形,球形,倒卵形,半球形など種によって異なる。多くの種では,基質上をはう菌糸に有性生殖器官を生じる。雌雄同株のものと異株のものとがある。いずれも性的に相対する菌糸の双方から小突起を生じ,その先端に配偶子嚢をつけるが,それらは相接すると合併して一つの接合子嚢となる。接合子嚢は著しく突出したいぼ状の突起をもつ厚膜をかぶっている。

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百科事典マイペディア 「ケカビ」の意味・わかりやすい解説

ケカビ(毛黴)【ケカビ】

接合菌類ケカビ科のカビ。草食動物の糞(ふん),生物死体,食品などに発生。菌叢(きんそう)は光沢のある銀灰色で,細かく分岐した菌糸から長い毛髪状の胞子嚢柄を出す。別に性の異なる菌糸が接合し,接合胞子を作る有性生殖も行う。食品を腐敗させる害菌だが,デンプン糖化力が強いものはアルコール製造に利用される。

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