ケーブル構造(読み)ケーブルこうぞう(英語表記)cable structure

改訂新版 世界大百科事典 「ケーブル構造」の意味・わかりやすい解説

ケーブル構造 (ケーブルこうぞう)
cable structure

石やコンクリート圧縮に強く引張りに弱い。そのため,この特徴を生かしてつくった構造は支える構造となる。これに対して,ケーブルは圧縮に弱く引張りに強い。この性質をじょうずに利用した構造がケーブル構造で,サスペンション構造suspension structure,あるいは懸垂構造とも呼ばれ,いわゆるつる構造となる。つり橋はケーブル構造の典型例で,ツタなどの自然材料を用いたつり橋はかなり古くから用いられていた。18~19世紀にはケーブル材料として鎖やアイバー(先端部に円形の穴のあいた鋼棒)を継いだものが用いられていたが,19世紀後半以降,高強度鋼ワイヤの出現などに伴い,長大スパンのつり橋の建設が可能となった。

 床や屋根をつり上げたり,ケーブル自身で屋根面を構成することにより,ケーブル構造は建築の分野でも用いられる。広く用いられるようになったのは20世紀中ごろからであり,とくに万国博覧会オリンピックの施設の建設を契機として発展してきた。建築におけるケーブル構造は,屋根に適用するつり屋根構造と床に適用する場合のつり床構造に分けられ,さらに,前者を力の伝達形式(ケーブルの張り方)によって分類すると,一方向つり屋根,二方向つり屋根,放射状つり屋根となる。一方向つり屋根は一群のケーブルを平行に張った構造形式をもつ。つり屋根は軽量であるが,たわみやすくゆれやすいので,これを防ぐためにつりケーブルを交差するケーブルで押さえた構造が二方向つり屋根である。ケーブルを放射状に配列したものが放射状つり屋根で,円形の空間をつくるときに多く用いられ,車輪を横にした形に似ていることから車輪型つり屋根とも呼ばれる。これらの構造では屋根面にケーブルが用いられ,ケーブルを支える境界構造は剛な構造になっている。境界構造にもケーブルを利用し,軽快で開放的な形態を求めたのがケーブル・ネット構造であり,ミュンヘン・オリンピックのメーンスタジアムに用いられ注目された。ケーブル構造は比較的自由な形態をつくることが可能な構造であるが,曲率の変化の激しい部分では引張りのみを伝える曲面では形成できないこともある。そのような場合,曲げ伝達を加えた半剛性つり屋根が利用される。日本国立屋内総合競技場(代々木)は半剛性つり屋根の代表的作品である。
つり橋
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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