翻訳|connotation
フランス語ではコノタシオン。共示、二次的意味、暗示的意味などと訳される。デノテーション(フランス語ではデノタシオン)denotation (外示、一次的意味、明示的意味)と対立して用いられる。
フランスの思想家ロラン・バルトが「記号学の原理」Éléments de Sémiologie(1964)で、この対立を理論化して以来、言語の意味作用および文化的な意味作用を考える際の不可欠の概念となった。
記号(シーニュ)signeは、シニフィアン(記号表現、意味するもの)signifiantの面とシニフィエ(記号内容、意味されるもの)signifiéの面の2側面をもつ。記号作用=意味作用(シニフィカシオン)significationは、このシニフィアンとシニフィエの連関から成り立つ。バルトが強調したのは、記号作用は一つのシニフィアンになんらかのシニフィエが対応するという一重の関係に終わらない、という点である。
「ビール」という言葉を例にとろう。この文字なり言語音なりの記号表現がもつデノテーションは、「麦を原料とするある種の発泡性アルコール飲料」である。しかし「ビール」という言葉は、この意味関係を土台として、さらに「清涼感」や「庶民性」(ブランデーなどに対して)、「広告競争」「地場産業」(「地ビール」の流行から)など、さまざまなコノテーションを現代日本では生み出す。
バルトは、デノテーションの上にコノテーションが重ねられていく多重的な意味作用を、ほぼ以下のように図式化した。
第一次レベルのシニフィアンSa1/シニフィエSé1の関係(デノテーションの作用)全体を新たなシニフィアンSa2とするような、より高次の意味作用が存在する。この第二次のレベルで生み出される新たなシニフィエSé2が、コノテーションの内容である。コノテーションは社会的、文化的コンテクストに応じて、何段階にも多様に積み重ねられる。
バルトが指摘しているように、コノテーションの作用が決定的に重要である領域として、文学、映像、音楽、広告などが挙げられる。文学作品(例えば小説)では、そこに語られている行為や出来事がなんらかの高次の意味を発生させないかぎり、作品の言語はほとんど無価値である。また、映像や音楽の「意味」とはコノテーションにほかならない。コノテーションの作用をもっとも意識的に活用しているのは広告の分野であり、広告においては文字、映像ほかすべての表現が商品やブランドにとって有益なコノテーションを発生させることを目的としている。
言語学における意味論研究はもちろんのこと、映像研究や文化記号論、コミュニケーション論、およびマーケティングの効果分析などのかたちで、コノテーションをめぐる研究はきわめて広範に展開されている。
[青柳悦子]
『ロラン・バルト著、渡辺淳・沢村昂一訳「記号学の原理」(『零度のエクリチュール』所収・1971・みすず書房)』▽『エドワード・T・ホール著、岩田慶治・谷泰訳『文化を超えて』(1979・TBSブリタニカ)』▽『Shirley Weitz ed.Nonverbal communication(1974, Oxford University Press, New York)』▽『Catherine Kerbrat-OrecchioniLa Connotation(1977, Presses universitaires de Lyon, Lyon)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…自然言語の特色は有限の手段によってあらゆるものを名指すことができる点にある(アメリカの言語学者N.チョムスキーのいう〈言語の創造性〉)。名指された対象はそれぞれの社会においてなんらかの評価を与えられるから,語は対象的意味のほかに評価的意味,コノテーションconnotationを帯びることになる。評価の違いと同時に,世界を分割する言語の網目も文化を異にする民族によって異なる。…
※「コノテーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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