コマユバチ(読み)こまゆばち

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コマユバチ」の意味・わかりやすい解説

コマユバチ
こまゆばち / 小繭蜂

昆虫綱膜翅(まくし)目有錐(ゆうすい)類コマユバチ科Braconidaeに属するハチ総称。世界で5000種以上、日本でも300種を下らない種類が知られている。分類学上ヒメバチ上科に属し、ヒメバチ科にきわめて似ているが、コマユバチ科は前翅の先端部に横断脈(第2反上脈)を欠いていることで簡単に区別できる。体長1ミリメートルぐらいから25ミリメートルぐらいのものまである。

 この科に属するハチは、鱗翅(りんし)目、膜翅目、甲虫目、双翅目、長翅目、噛虫(ごうちゅう)目などの卵、幼虫、蛹(さなぎ)、または成虫に寄生する。ほとんどの種類は内部寄生性で、餌物(えもの)となる昆虫(寄主とよばれている)の体内に産卵し、孵化(ふか)した幼虫はそのまま寄主の体内で摂食して成長する。十分成長したのち、寄主の体内で繭を紡ぐ種類と、体外に出て繭を紡ぐ種類がある。コマユバチという名称は、おそらくこの繭の形にちなんだものと考えられる。1匹の寄主から多数のハチの個体が羽化する多寄生といわれる種類と、つねに1匹の成虫だけが羽化してくる単寄生とよばれるものとがある。コマユバチはヒメバチやほかの寄生バチに比較して、その選択する寄主の範囲が限られている傾向が強いので、特定の農林業害虫防除に利用される例が多い。

 アリに寄生する一群では、卵が植物の芽やつぼみなどに産み付けられ、孵化した幼虫は、その付近を通りかかったアリに便乗してその巣に運ばれる。この群はアリヤドリコバチ科Paxylommatidaeとして別に扱うべきだとする意見もある。コマユバチ科の近縁にアブラバチ科Aphididaeとよばれる一群があるが、この科のハチはすべてアリマキの内部寄生バチである。

[桃井節也]

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改訂新版 世界大百科事典 「コマユバチ」の意味・わかりやすい解説

コマユバチ (小繭蜂)

膜翅目コマユバチ科Braconidaeに属する昆虫の総称。世界で5000種以上,日本からはウマノオバチアオムシサムライコマユバチ,スカシバコマユバチなど300種近くが知られている寄生バチ。ヒメバチ科にきわめて似ているが,前翅の先端部よりの横断脈のないことによって簡単に区別できる。鱗翅目,膜翅目,甲虫目,双翅目,シリアゲムシ目,チャタテムシ目などの幼虫,さなぎ,ときには成虫に寄生する。ほとんどの種類が内部寄生性で,寄主となるべき昆虫の体内,ときに卵内に産卵し,孵化(ふか)した幼虫はそのまま寄主体内で成長する。寄主の体内で繭をつむぐ種類と,寄主体外に出て,その周辺で繭をつむぐものとがある。名はこの繭の形にちなんだものであろう。寄主として選ぶ範囲が狭くて,特定の寄主,またはその近縁種と強く結びついて生活をおくる単食性,または狭食性と呼ばれる種類も多いが,いろいろな昆虫に寄生する広食性と呼ばれる種類もいる。一般的にいえば,寄主範囲が限定されている場合が多いようで,この性質を利用して天敵として農林業害虫の防除に使われた例も多い。アリ類に寄生する一群では,卵が植物の芽やつぼみなどに産みつけられる。かえった幼虫は通りかかったアリに便乗してその巣に運ばれ,幼虫に寄生する。この群はアリヤドリコバチ科Paxylommatidaeとして別に扱うべきだとする意見もある。アリマキ類に寄生するアブラバチ科Aphididaeもかつてはコマユバチ科に含まれていたが,現在では独立の科として扱われている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コマユバチ」の意味・わかりやすい解説

コマユバチ
Braconidae

膜翅目コマユバチ科の昆虫の総称。寄生蜂の一つで,老熟幼虫が寄主の体に穿孔して体外に出て,小さい繭をつくって蛹となるのでこの名がある。ヒメバチ科に近縁である。体長 10mm以下の小型のものが多いが,例外的に 20mm以上にもなる大型のウマノオバチもこの科に入る。アオムシサムライコマユバチ Apanteles glomeratusは体長 3mm,体は黒色,肢部は赤褐色で,シロチョウ科の幼虫に多寄生する世界共通種であるが,日本ではモンシロチョウエゾシロチョウの幼虫につく。そのほかニカメイガマツカレハチュウレンジバチ,トドマツカミキリなどの害虫に寄生するものが多く,山林ないし農林上の重要種を含んでいる。

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百科事典マイペディア 「コマユバチ」の意味・わかりやすい解説

コマユバチ

膜翅(まくし)目コマユバチ科の昆虫の総称。体長2〜6mmの種類が多いがウマノオバチのような大型種もある。他の昆虫,特に完全変態をする種類の幼虫の体内に寄生し,寄主が蛹化(ようか)する直前にその皮膚に穴をあけて脱出。普通その場で小さな繭を作って蛹化する。農業害虫の天敵になる種類がいる。→アオムシサムライコマユバチ

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