コンパニョナージュ(その他表記)Compagnonnage

改訂新版 世界大百科事典 「コンパニョナージュ」の意味・わかりやすい解説

コンパニョナージュ
Compagnonnage

産業化以前のフランスの手工業職人たちが職種ごとに集まり,技能訓練,仕事の保障,相互扶助,求道心の練磨などを目的に組織した同職種の職人組合。伝説によれば,その起源は聖書時代にまでさかのぼり,ソロモン王がエルサレム神殿を築いた時の組織が起りだという。実際に確認されるのは中世後半,特に末期からで,徐々に閉鎖的になった親方たちの団体である同業組合に対抗し,間欠的な失業に対処するために,職を求めて町から町へと移動していた職人たちが,自己防衛の組織として形成したものと思われる。しかし成文化した規約や記録は残されず,秘密結社として組織されたため,その実態は永らく不詳であった。16世紀の宗教改革への対応で,職人組合相互間での旧教派と新教派の対立が激化するに及び,歴史の表面に明白に登場した。数多くの職種別の職人組合は,徐々に連合的なまとまりをとり,それぞれ〈ソロモン王〉〈ジャック親方〉〈スービーズ親父〉の組織の末裔を自認する3派に大別され,各派間の抗争は時に流血の事態をも招いた。17,18世紀フランスにおいて,職人組合が労働力市場を支配するほど陰の力を持っていたことは疑いない。親方は同じ派の職人しか雇えなかったし,仕事の運行や手順は職人が実権を掌握し,いわば自主的に管理していた。悪条件でこき使う親方や雇用主は,しばしば組合側からボイコットされ,そうなると欲しい人手もままならなかった。またしばしば雇用側に対するストライキ運動が展開され,騒擾にまで至ることもあった。

 職人組合は,職業的保障のみでなく,ふつう兄弟信心会confrérieという信仰団体の姿をまとい,仲間職人の死去に際しては葬儀などを保証し,各職種の守護聖人祭などを独自に行った。アンシャン・レジーム下において,王権と教会の聖俗双方の当局は,この職人たちの秘密組織を解散させようと何度も試みたが,いずれも成功しなかった。それほどこの組織は強力で,その技術水準はきわめて高く,だれも無視しえない職人のエリート集団であった。彼らは数を増やすことは意図的に避け,入団するには,一定期間,技術と心身ともの試練を経たのち作品を提出し,それが承認されねばならない。しかも,見習としての修業を積んだ独身の若い職人に限られた。入団儀礼には職種による差異はあったが,一般に夜に行われ,入団者には特別の名前が与えられ,誓いが立てられる,一種の秘儀伝授式だった。20世紀初頭まで,入団した職人はふつう2~7年間の〈フランス巡歴〉の修業につくことを義務づけられた。巡歴は多く職人組合の中心地だったリヨンを出発点とし,おもにパリ以南を時計の針と同方向に回るもので,リヨン,マルセイユ,ボルドー,ナント,オルレアンは不可欠の通過都市であった。それぞれの町にある常宿が職人の共同生活の場で,シャンブルとかカイエンヌと呼ばれ,その女主人が職人たちの母親役として面倒をみた。巡歴職人は必ずここに泊まり,その町の〈筆頭職人〉の管轄下に入り,別の職人が新来者の職を世話する係を務めた。ブドウ酒の盃の握り方など,日常の身ぶりにも儀礼的作法があり,職種ごとに独特の色彩をもっていたリボンや杖,衣装までも,それぞれの流儀があった。挨拶のしきたり,唸り声のような奇妙なしゃべり方,抱擁のしかたなど,いずれも仲間うちだけの一種の暗号だった。また組織の象徴として,コンパスなど建築の道具が一般に携行された。仲間うちの争いは決して当局に訴え出てはならず,仲間うちで処理されねばならない。自らの誇りをきわめて重視し,強力な相互連帯を実践した組織であった。町から出発する職人を見送る儀礼は,全職人が盛装して行列を成すという盛大なものだったし,巡歴を終えて自分の店を構えたり結婚した場合,仲間職人は退団儀礼を経て〈引退者〉となったが,その後も接触は保たれた。

 職人組合の規制に失敗した王政は,ついに1783年には制限つき承認に転換するが,すぐに勃発したフランス革命が,91年のル・シャプリエ法で組合組織と共同行動のいっさいを禁じた。しかし非合法下に職人組合は根強く生き続け,むしろ七月王政と第二共和政下において隆盛をみるのである。この時期,組織間の抗争をやめさせ,組織を広く世に認めさせるのに大きく貢献したのが,自ら職人だったペルディギエと彼の著作である。労働者としての階級意識の醸成や1848年の革命に少なからぬ役割を果たした職人組合は,しかし,産業革命後の大工場型産業にはそぐわず,新しい型の労働組合とは軋轢(あつれき)を生ずる。第二帝政下には約20万の職人が傘下にいたというが,19世紀末には約2万5000に減少した。しかし職人の巡歴は部分的にはまだ健在だった。一時ビシー政権(1940-45)下には,国民革命のためとして政府主導で再活性化が試みられもした。今日なお,建築職人を中心とした全国連盟が存在している。
ギルド
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のコンパニョナージュの言及

【ギルド】より

…一般的には中・近世ヨーロッパにおける商工業者の職種ごとの仲間団体をさすが,このような同職仲間的な団体は,広く前近代の日本,中国,イスラム社会,インドにもみられる。ドイツ語ではギルドGilde,ツンフトZunft,インヌングInnung,フランス語ではコンパニオナージュcompagnonnage,イタリア語ではアルテarteとよばれる。日本では,同職組合,同業組合と訳されている。…

【ギルド】より

…一般的には中・近世ヨーロッパにおける商工業者の職種ごとの仲間団体をさすが,このような同職仲間的な団体は,広く前近代の日本,中国,イスラム社会,インドにもみられる。ドイツ語ではギルドGilde,ツンフトZunft,インヌングInnung,フランス語ではコンパニオナージュcompagnonnage,イタリア語ではアルテarteとよばれる。日本では,同職組合,同業組合と訳されている。
【ヨーロッパのギルド】
 すでに古代ローマに,コレギウムとよばれる同職団体が存在したが,ギルドのヨーロッパにおける起源は,7~8世紀にさかのぼり,ゲルマン民族に共通の歴史的背景をもっていた。…

※「コンパニョナージュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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