改訂新版 世界大百科事典 「サクランボ」の意味・わかりやすい解説
サクランボ (桜坊)
cherry
Prunus
バラ科の落葉果樹。園芸上は核果類に属し,オウトウ(桜桃)という。サクラ類の果実は1個の核をやわらかく多汁な果肉が包みこんでいるので,多くのものが食べられ,ソメイヨシノやヤマザクラの果実も苦くて美味ではないが,子どもが遊びに食べることがある。また食用にするために栽培されるサクラの種類もいくつかある。広い意味でのサクランボはサクラ類の果実を総称するが,園芸上では栽培種の果実をサクランボと称している。そのなかで日本の果樹として重要なものはセイヨウミザクラ(甘果オウトウ)P.avium L.(英名sweet cherry)で,サクランボの名称で市販されている果物は大部分が本種である。高さ15~20mになる落葉高木で,春にサクラに似た花を咲かせ,6~7月に果実が成熟する。
アジア西部からヨーロッパ南東部にわたる地域に原生,分布し,ヨーロッパの栽培歴は古い。アメリカでの栽培は18世紀以後で,現在は太平洋沿岸の諸州やミシガン州などに多い。日本へは明治初年に欧米から導入された。成熟期に雨の少ない北海道,東北地方などで栽培される。主産地は山形県で,日本のオウトウ栽培面積の60%以上を占めている。主要品種には日ノ出,ジャブレー,佐藤錦,高砂,ナポレオンなどがある。自家不和合性ならびに他家不和合性があるので,結実確保のため交配和合性品種を受粉樹として混植する必要がある。成熟期に雨にあうと裂果を生ずるので,樹上にビニルテントなどを張って雨よけ栽培をすることが多い。日本では生食として利用するほか,シロップ漬缶詰,ジャム,果実酒などの原料に利用する。
このほかスミノミザクラ(酸果オウトウ)P.cerasus L.(英名sour cherry)およびセイヨウミザクラとスミノミザクラの雑種P.gondouini(Poit.& Turp.)Rehd.(英名duke cherry)も世界の温帯地域でつくられている。スミノミザクラはパイや糖果の菓子,ジャムなどの加工原料に利用されるほか,アイスクリームなどにも用いられるが,生食としての利用は行われない。なお中国で果樹として栽培されるものにミザクラ(シナミザクラ,カラミザクラ)P.pauciflora Bungeがある。この種は落葉小高木で,日本でもときに庭に植えられている。
執筆者:志村 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報