サンゴバン(読み)さんごばん(英語表記)Compagnie de Saint-Gobain

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンゴバン」の意味・わかりやすい解説

サンゴバン
さんごばん
Compagnie de Saint-Gobain

フランスのガラス、建設資材などの総合メーカー。自動車用ガラス、研摩剤、産業用セラミックスなどでヨーロッパを中心に高いシェアを有する。

[湯沢 威]

歴史

創立は1665年にさかのぼり、ルイ14世の命を受けて鏡用ガラスの製造を開始。ベルサイユ宮殿の鏡や1851年のロンドン万国博覧会クリスタルパレス水晶宮)のガラスなどを製造した。馬車や鉄道時代には車両の窓ガラスも供給した。なお取締役は貴族出身者によって占められる伝統があった。

 19世紀の後半になると建築様式の変化とともに、建築資材としてのガラスの需要増大した。サンゴバンは1874年に化学会社のペレ・オリビエPerret-Olivierを合併することにより、12のガラス工場(うち3工場は海外)、9の化学工場を擁することになった。しかし、このころは世界的な不況で、国際間の競争も激しく、ベルギー、イギリスの企業との競争に加えて、アメリカ、ドイツの企業との競争にも直面した。とくに20世紀初頭はアメリカとの競争が激しく、溶融炉の改良や連続工程の導入などの技術革新に迫られた。このようななかで、海外戦略を積極的に展開したサンゴバンは、第一次世界大戦直前にはヨーロッパのガラス市場では27%の占有率をもってトップ企業の地位を確保した。

 1907年に株式を公開して外部資本を取り込み、経営改革を行って、従来の貴族的経営体質は後退することになった。1929年にフランスの自動車メーカーのシトロエン社にフロントガラスを供給し、以後この分野の販売が増大した。1930年代にグラスファイバーの事業を始めるが、本格的な事業展開は第二次世界大戦後のことになる。

 1960年代に入って同業者との競争に敗れ、石油、化学、製紙、建設、エンジニアリングなどの分野へと経営の多角化を図ったが、それは経営改善にはつながらなかった。その結果、1968年、企業規模10分の1ほどのガラス会社ブースワ・スーション・ヌーブセルBoussois-Souchon-Neuvesel(BSN)からの敵対的買収提案を受けたことを契機に、1970年、スエズ銀行の仲介鉄鋼、建設業のポンタムッソンPont-à-Moussonとの合併が図られた。このときのサンゴバンの企業規模は、ポンタムッソンの約3倍であった。なお、このポンタムッソンは1850年代に同地に鉄鉱石が採掘されたことをきっかけに地元の石炭商によって設立されたもので、その後、しだいに垂直統合を重ねて、鉱山製錬、最終製品の製造にまで事業を拡大した。とくに水道などの鋳鉄製管の製造に力を入れていた。概して歴代の経営者は技術畑の出身者によって占められていた。

 合併後の新会社の社長には、ポンタムッソンのロジェ・マルタンが就任。ポンタムッソンは合併に伴いサンゴバンのパイプ事業部門となった(2000年サンゴバンPAMに改称)。しかし合併後には化学、鉄鋼、石油などの不採算事業からの撤退を図り、電子、通信機器、事務機器などの分野に積極的に多角化を展開した。

[湯沢 威]

1980年代以降

1982年2月社会党のミッテラン政権下で国有化されたが、1986年保守内閣のもとで民営企業に復帰。1990年代以後、アメリカの大手研摩剤メーカーのノートン社をはじめ、イギリスの建築用ガラスメーカーやイタリアのガラス容器メーカーなどを買収して事業を拡大した。

 同社の経営戦略の基本は、内部成長と同時に、選択と集中を行いつつ、国際化を積極的に推し進めることである。そのため、既存部門の選別・整理、中軸部門の競争力の強化と技術革新を推進し、同時に収益性基準を順守しつつ、企業買収によって業界リーダーとしての地位を強化した。同社の組織は分権化されているが、それは地域上・業種上の違いを考慮してそれぞれの事業単位の責任と権限を明確化するためである。一方、戦略、資金調達、管理者の養成・選抜は集権化されている。セラミックスの研究開発、東欧、アメリカ、アジアでの影響力の増大、製品流通の再編、購入コストの削減などにより、年5%の生産性の向上を追求した。アジアではとくに中国での投資を積極的に行っている。2008年時点で、59か国に1000以上の関連会社を有し、従業員数は約21万人。同年の売上高は438億ユーロ、当期利益は36億ユーロ。製品別内訳はガラス12.5%、建築関連資材25%、セラミックスなど高性能資材9.5%、建築資材販売45%、梱包(こんぽう)関連8%。地域別内訳はフランス国内28%、フランスを除く西ヨーロッパ44%、北米12%、新興国およびアジア16%となっている。

[簗場保行・湯沢 威・田村隆司]

日本における活動

買収したアメリカのノートン社の製品はすでに1917年(大正6)に販売されていたが、本格的な活動は1975年(昭和50)日本ノートン販売株式会社の創立以降である。さらに1980年代以来、本社のアジアへの投資の加速に伴って、1985年にサンゴバン株式会社が日本法人として新たに設立。1988年日本電気硝子(ガラス)株式会社とコンクリート強化用の高ジルコニア耐アルカリ性硝子繊維の販売で提携した。また1999年(平成11)には研摩材メーカーの日本研磨材株式会社の株式の過半数を取得、2002年には日本板硝子株式会社などガラスメーカーとの合弁会社を設立するなど、多方面での資本提携を通じて事業基盤を強化している。

[簗場保行・湯沢 威・田村隆司]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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