改訂新版 世界大百科事典 「ザトウクジラ」の意味・わかりやすい解説
ザトウクジラ (座頭鯨)
humpback whale
Megaptera novaeangliae
ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科の哺乳類。熱帯から寒帯まで世界中に広く分布し,体長15mに達するずんぐりしたクジラ。低い背びれと体長の1/3に及ぶ長い胸びれが特徴。背びれが,琵琶を背負った座頭の姿に似ているところから,この名があるといわれる。頭部にはこぶし大の肉質の隆起が散在し,その頂に1本ずつ感覚毛が生える。背面は黒褐色,腹面には白色域があるが個体差が著しい。うねは少なく20~30本。ひげ板は左右に各三百数十枚あり,薄く,色は黒褐色。体表にはフジツボやクジラジラミがしばしば着生している。冬に熱帯の沿岸域で交尾と出産をし,夏には高緯度海域に索餌回遊をする。各地に特定の繁殖場と索餌場をもっていることで知られる。日本近海では沖縄と小笠原に繁殖場があり,夏にはアリューシャン列島,カムチャツカ半島西岸にかけてで索餌する。北太平洋にはこのほかにハワイ,メキシコ沿岸,コスタリカ沿岸に繁殖場があり,夏にはカリフォルニア沿岸とアラスカ湾に回遊する。2~3年に1回1子を生む。12ヵ月の妊娠の後,子は体長4.5~5mで生まれ,10~11ヵ月間哺乳して8~9mで離乳する。泳ぎは遅いほうで,時速6~12kmであるが,しばしば水面上に跳躍してたわむれる。多くは単独で行動するが,時に十数頭の群れをつくることもある。浮遊性甲殻類や群集性魚類を餌とする。本種は沿岸に近づくうえに,動きはのろく,死体が浮くため捕獲が容易で,昔から世界各地で捕獲されてきた。近代捕鯨業によって資源は壊滅的な打撃を被り,1966年以後現地民による若干のものを除き捕獲が禁止され,いまでは増加しつつある。現在の生息頭数は北太平洋に4000~5000頭,北大西洋に1万2000頭,南半球に1万3000頭といわれる。体色や尾びれの後縁の形を目印にして個体を識別して,回遊や繁殖周期の研究が行われている。天敵はシャチがおもなものであるが,沿岸の定置網などにかかって死ぬことも少なくない。
執筆者:粕谷 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報