細く割った竹で丸くくぼみをつけて編み上げた容器。漢字では「笊」と書くが、これは中国においても竹で編んだ器を意味する。別に同じ意味で「笊籬(そうり)」という語があり、「そうり」が日本において「ざる」と転訛(てんか)したものであろう。おもに調理材料の水切りに使われるが、そのほかに料理の盛り付け器としても使われる。
平安時代中期の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には、「笊籬」の訓として「むぎすくひ」をあげ、麺(めん)類をゆでるための竹器とする。また室町時代中期の辞書『下学集』には、「笊籬」の音に「そうり」、訓に「いかき」を記し、「味噌漉也(みそこしなり)」と定義している。このほか、江戸時代より以前の古辞書では「笊籬」を、ほとんどが「いかき(いがき)」と読んでいる。江戸時代中期の方言集『物類称呼(ぶつるいしょうこ)』には、「畿内(きない)及奥州にて、いかき、江戸にて、ざる、西国及出雲(いずも)、石見(いわみ)、加賀、越前(えちぜん)、越後(えちご)にて、せうけと云(いう)」と記す。あるいは、この語は単語の地域差を示すかっこうの例であったらしく、たとえば『皇都午睡』には「(江戸では)いがきをざる」というと記す。
以上の例からわかるのは、日本において水分を漉(こ)すための竹器に「笊籬」の字があてられ、畿内を中心とした先進地域では「いがき」とよばれ、「ざる」という呼び方は江戸を中心とした地域で使われ、近年全国的に普及したということである。
ざるはまた魔除(まよ)けとしても使われることがあった。たとえば江戸では2月8日に門口にざるをかけた。一説に、ざるの目の形が晴明星(せいめいせい)という陰陽道(おんみょうどう)における魔除けのしるしに似ているからだというが、これは、鬼が人に邪視を加えようとすると、ざるの目の複雑さに気をとられて力を失うからだともいう(南方熊楠(みなかたくまぐす)著『十二支考』)。
[森谷尅久]
…古来,行商人は婦人が多く,古典にも販女(ひさぎめ),販婦(ひさぎめ)の名で記された。徳島県海部郡阿部村(現,由岐町)の婦人行商はイタダキ(頭上運搬にもとづく呼称)の名で知られ,カネリ(山口・島根両県),ササゲ,ボテフリ,カタギ,ザルなど,運搬法が行商人の呼称となっている点が注目される。行商の古態をさぐる指標となる事柄は,取引の時期と訪ねる相手方が,ほぼ固定しているか否かにある。…
※「ざる」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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