日本大百科全書(ニッポニカ) 「シイラ」の意味・わかりやすい解説
シイラ
しいら / 鱰
common dolphinfish
[学] Coryphaena hippurus
硬骨魚綱スズキ目シイラ科に属する海水魚。別名マンビキ。地方によりクマビキ、トウヤクなどとよぶ。皮膚が堅く、よく側扁(そくへん)して薄身であることが粃(しいな)(十分に実らない籾(もみ))に似ていることから、シイラの名が生まれたという。背びれの基底が長く、目の背方から始まって尾柄(びへい)に終わること、尾びれが深く切れ込むこと、成熟した雄では前頭部の背縁が著しく隆起することなどが特徴。全長2.1メートル、40キログラム前後になる。近似種に全長約90センチメートルのエビスシイラCoryphaena equiselisがある。シイラよりも体が高くて、丸く、より沖合いに生息する。漁獲量はシイラより少ない。
世界中の熱帯から温帯にかけて分布し、おもに外洋にすむ。大きな回遊をし、水温18℃になる春に日本近海へ来遊する。潮目付近で小さな群れを組む。また海面を漂う木材、舟、海藻などの固形物につく習性がある。肉食性で、幼魚は流れ藻につく魚類やエビ類、イカ類などの幼・稚魚を、体長約40センチメートル以上の個体はカタクチイワシ、マイワシ、トビウオ類などの中型魚類をよく食べる。摂餌は日中よりも、早朝のほうが活発である。産卵期は熱帯では長いが、日本近海では春から夏に限られる。全長75センチメートル前後に成長したころから成熟する。卵は分離浮性で球形をし、直径1.4ミリメートル前後。受精後2日余りで孵化(ふか)し、4日目に卵黄を吸収する。ふ化仔魚(しぎょ)は全長4ミリメートルたらずで、尾柄(びへい)部を除く体側はたくさんの黒色素胞(こくしきそほう)で被われる。全長約13ミリメートルくらいになると体側に13本ほどの横帯があらわれる。日本の沖合いでは稚仔魚は7、8月ごろに多い。
日本では1万トン前後の漁獲があり、太平洋の南部と山陰の沖合いに多い。漁期は5月から11月にわたる。タケを組み合わせた漬(つけ)木を沖合いに浮かべ、これに集まったシイラを釣りまたは網によって漁獲する。これをシイラ漬漁法といい、シイラが物陰に集まる習性を利用したものである。ほかに巻網、定置網、巾着網などによる漁獲量は多い。新鮮な刺身は美味であり、酢じょうゆで食べる。干物にもする。ハワイではマヒマヒとよばれ、ソテーやフライにする。
[落合 明・尼岡邦夫]