日本大百科全書(ニッポニカ) 「シクロオクタテトラエン」の意味・わかりやすい解説
シクロオクタテトラエン
しくろおくたてとらえん
cyclooctatetraene
環状の不飽和炭化水素の一つ。[8]アヌレンともよばれる。COTと略称される。悪臭をもつ黄色の液体。空気中において徐々に重合する。1912年ドイツのR・ウィルシュテッターにより、天然物のペレチュリンから初めて合成された。工業的には高圧下、シアン化ニッケルを触媒として、4分子のアセチレンを付加環化させるレッペ法で製造される。この化合物はベンゼンの同族体として、芳香族性をもつかどうか興味をもたれたが、結合角の関係で平面構造をとれないうえ、8π(パイ)電子系であるのでヒュッケル則から平面構造は不安定であると予測され、実際にも非平面構造をとっていて単なるポリオレフィンの性質しか示さない。しかし、金属カリウムで還元すると、2電子の供与を受け、10π電子をもったシクロオクタテトラエン・ジアニオンが生成する。この化合物はヒュッケル則によると芳香族性による安定化を受けるので平面構造をとっている。
シクロオクタテトラエン(環状化合物の重要な合成中間体として、またフェニルアセトアルデヒドやテレフタルアルデヒドの合成原料として用いられる。
のA)は原子価異性体のビシクロオクタトリエン( のC)に転位しやすく、付加反応、臭素化、酸化反応などは、ビシクロオクタトリエンの形の反応生成物を与える。[向井利夫・廣田 穰]