レッペ反応(読み)レッペハンノウ(英語表記)Reppe reaction

デジタル大辞泉 「レッペ反応」の意味・読み・例文・類語

レッペ‐はんのう〔‐ハンオウ〕【レッペ反応】

アセチレンを特殊装置や触媒などを使って高圧下で反応させ、種々の有用な化合物を合成する一連の反応。合成樹脂合成ゴム合成繊維などの原料製造に重要。1930年代にドイツの化学者レッペ(Walter Julius Reppe[1892~1969])らが開発。

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精選版 日本国語大辞典 「レッペ反応」の意味・読み・例文・類語

レッペ‐はんのう‥ハンオウ【レッペ反応】

  1. 〘 名詞 〙 ( レッペは Reppe ドイツの化学者の名から ) レッペらの開発した、高圧アセチレンを用いた合成反応。特殊な触媒を用い、合成樹脂、合成繊維、合成ゴムなどの工業分野で重要な役割を果たしている。レッペ法。

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改訂新版 世界大百科事典 「レッペ反応」の意味・わかりやすい解説

レッペ反応 (レッペはんのう)
Reppe reaction

ドイツの工業化学者W.J.レッペが1928年以来開発してきたもので,金属カルボニル触媒下におけるオレフィンアルキンアルコールなどと一酸化炭素との反応でカルボン酸アルデヒドエステル,ハロゲン化アルキル,酸塩化物など一連の有機化合物を合成するための反応の総称。レッペは,当時危険視されていたアセチレンの加圧下での反応をあえて試み,1930年,アルカリ性触媒の存在下で,加圧下にアセチレンとアルコールを150~200℃で熱すると一挙にビニルエーテルが得られることを見いだした。これがレッペ化学の第一歩である。その後,レッペはこのアセチレンの加圧下反応を大きく発展させ,一連のレッペ反応を開拓した。第2次大戦中はその大部分がドイツで工業化され,戦後もその一部は諸外国で工業化されている。これらの反応は,主としてカルボニル基を有する化合物の合成,すなわちカルボニル化反応として現在大規模に行われている。レッペ反応は次のように分類できる。

(1)ヒドロホルミル化 アセチレンやアルケンの不飽和結合に対して,式(1)に示すように,水素とホルミル基が付加したような生成物を与える反応。

この反応は一酸化炭素と水素の混合高圧ガスの雰囲気下,100℃前後に加熱し,触媒にコバルトカルボニルCo2(CO)8,ロジウム-オレフィン錯体,ロジウム-フェノチアジン錯体などを用いる。アルケンに対して同様の反応を行うと飽和アルデヒドが生成する。この場合,不斉触媒を用いることにより,光学活性なアルデヒドの合成もなされている。

(2)ヒドロエステル化反応 アルキンにアルコールの存在下,一酸化炭素CO雰囲気下で触媒を作用させると式(2)に示すように,反応条件によって種々のエステル合成が可能となる。

触媒にはニッケルカルボニルNi(CO)4,コバルトカルボニルCo2(CO)8,ヨウ化ニッケル(Ⅱ)NiI2,塩化パラジウム(Ⅱ)PdCl2などが有効である。たとえば,アセチレンをPdCl2を触媒としてメチルアルコールの存在下で反応させると,マレイン酸ジメチルが90%の収率で生成する(式(3))。

(3)ヒドロカルボキシル化反応 ヒドロエステル化反応でアルコールの代りに水を用いるとヒドロカルボキシル化反応が起こる。アセチレンをNi(CO)4の存在下,一酸化炭素および水と反応させると,アクリル酸が95%の収率で得られる(式(4))。

アセチレンの代りに種々のアルキンが利用されている。式(5)に示すタイプの非対称アルキンの場合,aやbのような2種類の生成物が生ずる可能性があるが,置換基Aがアルキル,アリール,-CH2OH,-CH2CH2OH,-CH2CH2CH2OHの場合にはaが選択的に生成する。AがCOOH,COOCH3,COCH3のような電子求引基またはCH2C(CH32OHのようなかさ高い基の場合にはbが主として生成することがわかっている。

この化合物にみられるように,反応の立体化学はシス付加となる。オレフィンに対しても同様の反応が起こり,飽和カルボン酸が生成するが,反応条件はアルキンの場合より激しく,高温,高圧が必要である。

(4)その他のレッペ反応 アミンチオール,カルボン酸,塩化水素などの存在下で,式(6)に示すような生成物を与える。



また,アルキンの代りに,ハロゲン化アルキル(式(7)),芳香族ニトロ化合物(式(8))もレッペ反応条件下で反応し,カルボニル化が起こる。

 ArNO2+3CO─→ ArNCO+2CO2 ……(8) 

以上述べたカルボニル化反応のうちで,とくに工業プロセスとして重要で現在使われているものをあげると,次の四つに集約される。(1)アセチレンからアクリル酸およびアクリル酸エステルの合成。(2)メチルアルコールから酢酸の合成。(3)プロペンからブチルアルコールの合成。(4)ジニトロトルエンからトルエンジイソシアナートの合成。

 レッペ反応は20世紀で最も偉大な化学工業上の発見といわれ,その後アメリカで発展した石油化学好一対をなすものである。このようにレッペ化学は重要な化学工業プロセスとしてのみならず,その触媒化学における有機金属化学の実り多い一分野として現在も活発な研究が続けられている。しかしレッペ反応の基礎原料であるアセチレンに代わってエチレンプロピレンなどの石油化学工業からの原料を利用するのが世界的に隆盛となったため,第2次大戦後は工業的には大発展に至らなかった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「レッペ反応」の意味・わかりやすい解説

レッペ反応
れっぺはんのう
Reppe reaction

アセチレンを原料として適当な触媒を用い、主として高圧下で種々の有用な化合物を合成する反応。ドイツのレッペらが1930年代から1940年代にかけて発展させた。ビニル化、エチニル化、環化重合、カルボニル化の四つに大別される()。これらの反応は、第二次世界大戦後の化学工業に重要な貢献をした。

[湯川泰秀・廣田 穰 2016年11月18日]

ビニル化

加圧下でアルカリ触媒を用いて、アセチレンとアルコールからビニルエーテルを合成する反応。アミン類も同様な反応によりビニル化される。カルボン酸は亜鉛塩の存在下でビニルエステルを生ずる。

[湯川泰秀・廣田 穰 2016年11月18日]

エチニル化

高圧下でアセチレン銅を触媒として、アセチレンとホルムアルデヒドからプロパルギルアルコールとブチンジオール(正確な名前は2-ブチン-1,4-ジオール)を合成する反応。

[湯川泰秀・廣田 穰 2016年11月18日]

環化重合

加圧下でニッケル錯塩を触媒として、アセチレンからベンゼンおよびシクロオクタテトラエンを合成する反応。

[湯川泰秀・廣田 穰 2016年11月18日]

カルボニル化

アセチレンとテトラカルボニルニッケル(0)からアクリル酸誘導体を合成する反応。

[湯川泰秀・廣田 穰 2016年11月18日]


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化学辞典 第2版 「レッペ反応」の解説

レッペ反応
レッペハンノウ
Reppe reaction

】W.J. Reppeにより,1930年ころから第二次世界大戦までに開発された合成反応で,適当な触媒を用いてアセチレンを加圧下で反応させる合成反応の総称.反応は次の四つに大別され,いろいろ有用な有機化合物を得ることができる.
(1)ビニル化:水酸化アルカリを触媒にしてアセチレンにアルコール,アミンなどを付加させ,ビニルエーテル,ビニルアミンなどを生成する反応.

(2)エチニル化(アルキノール合成):主として銅(Ⅰ)アセチリドを触媒として,アルデヒド,ケトン,およびアミンから置換アセチレン誘導体を生成する反応.

(3)環化重合:ニッケル錯塩を触媒としてベンゼンあるいはシクロオクタテトラエンを生成する反応.
(4)カルボニル化(オキソ合成):金属カルボニルの存在下,アセチレンと一酸化炭素および水(またはアルコール)からアクリル酸またはそのエステルを得る反応.

】上記Reppeが1952年に見いだした C2~C4 アルケン,一酸化炭素,水から直接 C3~C5 アルコールを合成する反応で,N-ブチルピロリジンのような第三級アミンの存在下,Fe(CO)5を触媒に用いる.

生成ブタノール中n-ブタノールが84% を占め,ほかはイソブチルアルコールである.【】のレッペ法に対して,新レッペ法とよばれることがある.

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百科事典マイペディア 「レッペ反応」の意味・わかりやすい解説

レッペ反応【レッペはんのう】

1930年ころからレッペらによって研究開発されたアセチレンを原料とする一連の合成反応。各種触媒を用い,加圧下でアセチレンに水,アルコール,フェノール,アルデヒド,ケトン,アミン,一酸化炭素などを付加させたり,アセチレンを重合させて,ビニル化合物,エチニル化合物,カルボニル化合物,環状化合物などを合成する。合成樹脂,合成ゴム,合成繊維などの原料製造に広く応用されてきたが,第2次世界大戦後は,大部分が新しく発展した石油化学方式に転換した。(図1)(図2)(図3)(図4)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レッペ反応」の意味・わかりやすい解説

レッペ反応
レッペはんのう
Reppe reaction

1930~40年に W.レッペによって開発された高圧アセチレンを使用する一連の合成反応。いずれも工業的にきわめて重要で,次の反応が含まれる。 (1) アセチレンにアルコール,アミンなどを付加して,ビニルエーテル,ビニルアミンを合成する。 (2) 銅アセチリドを触媒にしてアルデヒド,ケトン,アミンをエチニル化する。 (3) ニッケル錯体を触媒にアセチレンを重合してベンゼンなどに合成する。 (4) ニッケル錯体を触媒にしてアセチレンと一酸化炭素を付加しアクリル酸を生じる。

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