ウィルシュテッター(読み)うぃるしゅてったー(英語表記)Richard Martin Willstätter

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィルシュテッター」の意味・わかりやすい解説

ウィルシュテッター
うぃるしゅてったー
Richard Martin Willstätter
(1872―1942)

ドイツの有機化学者。カールスルーエに生まれ、スイスロカルノ死去。ミュンヘン大学、チューリヒ大学などの教授を経て、1912年にベルリン大学教授。同時に同年創設されたカイザー・ウィルヘルム化学研究所(現、マックス・プランク研究所)所長となった。3年後ミュンヘン大学に戻ったが、ドイツの反ユダヤ主義に抗議して同大学教授を辞職し、私設の研究室で仕事を続け、1939年にスイスのロカルノに亡命した。有機物のなかで生理的活性のあるアルカロイド類や生物色素のアントシアン類の研究を行ったが、のちに植物の緑色色素クロロフィル葉緑素)の研究に進み、初めてその結晶を得ることに成功し、化学構造を決定した。この研究はシュトルA. Stoll(1887―1971)との共著『クロロフィルの研究』Untersuchungen über Chlorophyll(1913)に集大成され、1915年にノーベル化学賞を授与された。彼の提出したクロロフィル構造式はその後1930年代になってH・フィッシャーによって訂正されたが、基本的な骨格は変わっていない。

 この研究を基礎にして、クロロフィルが機能している植物の炭酸同化作用光合成)の研究に進み、1918年にシュトルと共著の『炭酸同化作用の研究』Untersuchungen über Assimilation der Kohlensäureを出し、そのメカニズムについての仮説を提出した。光合成に関する初期の代表的な研究者の一人である。別に『酵素に関する研究』Untersuchungen über Enzyme2巻(1928)がある。

[宇佐美正一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィルシュテッター」の意味・わかりやすい解説

ウィルシュテッター
Willstätter, Richard Martin

[生]1872.8.13. カルルスルーエ
[没]1942.8.3. ロカルノ
ドイツの有機化学者。 1894年ミュンヘン大学で学位取得後,チューリヒ大学教授 (1905) ,ベルリン大学教授 (12) ,カイザー・ウィルヘルム化学研究所所長 (12) ,ミュンヘン大学教授 (16) 。反ユダヤ主義に抗議して辞職 (24) したが,個人的に研究を続け,スイスに亡命 (39) 。アトロピンコカインなどのアルカロイド,アントシアン類の研究をはじめ,炭素同化作用 (光合成) の研究,酵素の研究,とりわけカルボヒドラーゼプロテアーゼリパーゼなどの定量,濃縮分離が知られる。最も重要なのは,葉緑素をはじめとする植物色素の結晶構造研究である。 1915年ノーベル化学賞を受賞した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android