シャクナゲ(読み)しゃくなげ

改訂新版 世界大百科事典 「シャクナゲ」の意味・わかりやすい解説

シャクナゲ (石南花)
Rhododendron

シャクナゲ類は園芸的にはロードデンドロンとよばれ,ツツジ科ツツジ属Rhododendronの常緑性の低木または小高木をさす。〈ツツジ〉の項目で述べてあるように,ツツジ属の分類からすると,常緑性の種類は系統の異なるいろいろな群に見られ,落葉性のツツジ類との区別ははっきりしない便宜的な扱いである。日本では昔からシャクナゲの名は,シャクナゲ節に属するものにのみの,狭い意味に使われてきた。日本の種類だけを扱っていればそれですむが,外国から多くの種類が入ってくると,バイカツツジ節の常緑性のものや,セイシカ節,ヒカゲツツジ亜属の種類など,園芸的にはシャクナゲの名を広い意味で使わざるをえない。しかしそれは便宜的なものである。ここでは狭義の意味のシャクナゲ節について述べる。

 シャクナゲ節の種類は低木ないし高木で,大きなものは10m以上の大木となる。葉は常緑性で,多く枝先に集まってつき,革質で光沢がある。春,枝先に散形状の総状花序をつけ,2~10数個の花を咲かせる。萼はごく小さい。花冠は鐘形で5~8裂する。おしべは普通,花冠裂片の2倍の数である。蒴果(さくか)は円柱形。世界に300種ほど知られ,おもに中国からヒマラヤに分布し,日本,西アジア,マレーシアなどの周辺地域や北アメリカに少数の種類がある。日本,朝鮮に4種,台湾に2種が知られる。おもに温帯から亜寒帯に生育し,多くの系統に分けられる。ヒマラヤのR.grande WrightやR.hodgsoni Hook.f.のように,大輪の花が多数集まって大きな花序をつくりみごとな美しいものがあるが,冬寒く夏暑い日本の気候では屋外での栽培はむずかしい。しかし中国の低山性のものは,日本でも屋外でよく生育する。

 日本にある4種類はすべてポンティクム系のものとして扱われることが多いが,実際にはポンティクム系のものはハクサンシャクナゲだけで,他は別系統と考えられる。

(1)アウレア系 キバナシャクナゲR.aureum Georgiは唯一の寒帯性の種類で,丈は50cmほどにしかならず,全体無毛で花は黄色である。本州中部以北,北海道,千島,カムチャツカサハリン,朝鮮北部,東シベリアに分布し,この系で1種しかない特殊な種類である。

(2)ポンティクム系 ハクサンシャクナゲR.brachycarpum D.Donは若葉に袋状の毛があるが,じきに落ちて無毛となる。花は桃色系統が多く,花冠上部内面の濃色の斑紋が著しい。ハクサンシャクナゲは四国,本州中部以北,北海道,朝鮮北部の亜高山帯の林縁に生える低木で,高さ2~3mになる。この仲間は西アジアに1種,北アメリカに3種知られる。

(3)ヒメナンテス(アルギロフィルム)系 静岡県と愛知県の山地の岩場に生えるエンシュウシャクナゲR.makinoi Tagg(一名ホソバシャクナゲ)と,本州の東北地方南部から四国,九州の温帯林中に生えるホンシャクナゲR.metternichii Sieb.et Zucc.がこの系に属す種類で,台湾のR.formosanum Hemsleyや中国大陸の湖北省四川省,雲南省にかけて10数種の近縁のものが知られる。花は一般に紅紫色である。ヤクシマシャクナゲのように丈が1.5mほどにしかならないものもあるが,多くは5~7mほどになる小高木で,葉にはふけ状毛と枝状毛とが生える。ホンシャクナゲは地域によって多くの変異が起こっている。ホンシャクナゲは葉の裏面はふけ状毛だけで枝状毛はほとんどなく,花冠は7裂する。四国北部,中国地方から中部地方に分布する。この形で葉の小さいものが隠岐島にあり,オキシャクナゲという。花冠は7裂するが,葉の裏面に枝状毛が密生するものをツクシシャクナゲといい,紀伊半島,四国南部,九州に分布する。屋久島の上部には丈が低く,葉の裏面に長い枝状毛が密生し,花冠が5裂するものがあり,ヤクシマシャクナゲという。島の中腹の林中には葉の裏面の毛が少なく,丈の高いものがあり,ウスゲヤクシマシャクナゲという。静岡県北部には,ホンシャクナゲに似るが花冠が5裂するものがあり,キョウマルシャクナゲという。これは葉の裏面が赤褐色であるが,天城山には灰白色のものがあり,アマギシャクナゲという。関東から東北地方南部には花冠が5裂し,葉の裏面に枝状毛が密にあるものがあり,アズマシャクナゲという。

(4)マクリフェラ系 台湾の高山帯にニイタカシャクナゲR.pseudochrysanthum Hayataがある。また中国大陸の中部,西部に8種ほど知られる。葉の裏面に小さな腺点が散在するのが特徴である。台湾の亜高山帯に生育するモリシャクナゲはこの亜種で花が大きく,花冠内面に鮮やかな赤色の斑点があり美しい。この花の白色のものが台湾北部にあり,アカボシシャクナゲという。ともに日本で栽培され,屋外でじょうぶに育つ。
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近年,西洋シャクナゲの名で外国産のシャクナゲの品種が多数導入され,それらの中にはじょうぶで日本の平地の気候にも適したものがあり,比較的容易に栽培できるようになった。西洋シャクナゲの原種になったシャクナゲの野生種は主として中国雲南省からヒマラヤにかけての地域に集中していて,その種の数は約500種といわれている。したがって西洋シャクナゲの園芸品種の変異の幅は大きく,極小型の矮性(わいせい)品種から高さ5~6mを超す大型種まで,花色も紅,紫,桃,白と千差万別である。その中からおもな品種をあげてみると,紫花系ではブルー・エンサイン,パープル・スプレンダー,ファスツォサム・フロラプレノ,サファイア。黄花系ではユニーク,ブロートニー・オウレウム,サフロン・クイーン,クリソマニカム,パリジェンヌ。赤花系ではビビアニ,バルカン,アメリカ,ジーンマリー・ド・モンターギュ,ノバ・ゼンブラ,アナ・ローズ,ピンク・パール。白花系ではカンニンガムズ・ホワイト,ボール・ド・ネージュ,サッフォー,マダム・マッソン。複色花系ではプレジデント・ルーズベルトなどがある。

 これら洋種のシャクナゲはその基本となった野生種の多くが中国大陸南部やヒマラヤの山岳地域のものであり,そのうえ夏冷涼なヨーロッパで品種改良されてきたので,日本の夏の高温と梅雨期の長雨による多湿は生育条件としては好適ではない。高冷地は別として,日本の平地で西洋シャクナゲを栽培する場合には,できるだけ排水のよい場所に植え,通風をよくし,西日を避けるくふうが必要である。また,梅雨期には雨に直接あてない方がよいので,鉢植えにしておくとよい。鉢植えの場合は,大きめの鉢に排水のよい鹿沼土,あるいは鹿沼土にピートを混合した用土を用いて植え込む。2~3年に一度鉢替えをするが,西洋シャクナゲは生育が旺盛で,すぐ大株に育つので,最終的には庭に植えることになる。日本産のシャクナゲとちがって西洋シャクナゲは刈込みのあとの芽吹きがよいので,花のあと剪定(せんてい)をすればコンパクトな樹姿に整形できる。

 また,東南アジアからマレーシア地域に分布するビレア群Vireyaは熱帯系のシャクナゲとして最近になって注目され,オーストラリアなどで品種改良も始まっている。種数は300種近くにのぼり,蠟細工のようなつやのある花冠は美しいが,多くのものは高温,低温ともに弱く,栽培がむずかしい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャクナゲ」の意味・わかりやすい解説

シャクナゲ
しゃくなげ / 石南花
石楠花
[学] Rhododendron

ツツジ科(APG分類:ツツジ科)ツツジ属のうちシャクナゲ亜属の総称であるが、ホンシャクナゲやアズマシャクナゲを単にシャクナゲということもある。常緑低木または小高木。葉は全縁で互生し、革質で光沢がある。花は漏斗(ろうと)状の合弁花で、枝先に総状花序につくが、花序が球状に、その下に葉が輪状についてみえるのが特徴である。シャクナゲ類はヨーロッパ、アジア、北アメリカに分布するが、ヒマラヤ東部、ネパールから中国の雲南省、四川(しせん)省に種類が多い。日本には高山帯から亜高山帯に分布するキバナシャクナゲ、ハクサンシャクナゲ、それより低い山地に分布するツクシシャクナゲ、ホソバシャクナゲや、その変種、品種がある。

 キバナシャクナゲR. aureum Georgiは淡黄色花を開き、中部地方、北海道の高山に生える。ハクサンシャクナゲR. brachycarpum G.Donは白から淡紅色の花を開き、北海道、中部地方以北の本州、および四国の石鎚(いしづち)山などの亜高山帯に生える。葉裏が無毛の変種ケナシハクサンシャクナゲがあり、八重咲きの品種をネモトシャクナゲという。ツクシシャクナゲR. japonoheptamerum Kitam. var. japonoheptamerumR. metternichii Sieb. et Zucc.)は花冠の先が7裂した淡紅色花を開き、紀伊半島、四国、九州の山地に生える。変種のホンシャクナゲは葉裏の淡褐色の毛が少なく、褐色の毛を厚く密生するツクシシャクナゲと区別する。長野県、愛知県以西の本州、四国の山地に生える。葉が短くてやや薄い変種をオキシャクナゲという。キョウマルシャクナゲは葉裏の毛がさらに少なく、花冠は5、6裂する。伊豆、静岡県西部、長野県南部の山地に生える。アズマシャクナゲは葉裏に淡褐色の毛を密生して花冠は5裂し、山形県、宮城県以西から関東地方、中部地方南部に生える。屋久島(やくしま)に生えるヤクシマシャクナゲも花冠は5裂する。エンシュウシャクナゲR. makinoi Taggはホソバシャクナゲともいい、葉は線状倒披針(とうひしん)形で細く、愛知県東部、静岡県西部の山地に生える。

 セイヨウシャクナゲは世界各地のシャクナゲを交配してつくられた園芸品種の総称で、ロードデンドロンともいい、1000種以上の品種がある。シャクナゲ類は花木として観賞され、材は小細工物に用いられる。繁殖は実生(みしょう)、株分け、取木による。成長は遅く、野生種は栽培がややむずかしい。

[小林義雄 2021年4月16日]

文化史

シャクナゲの名は石南花あるいは石楠花から由来したが、漢名の石楠はバラ科のオオカナメモチPhotinia serrulata Lindl.をさし、現代の中国では杜鵑を用いている。石南草の名は『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(901ころ)に、石楠草は『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)に載っている。いずれも和名としては止比良乃木(とびらのき)をあげているので、それはトベラ(トベラ科)と考えられる。シャクナゲの名は室町時代から使われたようで、『下学集(かがくしゅう)』(1444)に記載がある。かつて、石鎚山(愛媛県)のハクサンシャクナゲを行者が手折って持ち帰り、畦(あぜ)に挿して豊作を祈る習俗があった。

[湯浅浩史 2021年4月16日]


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百科事典マイペディア 「シャクナゲ」の意味・わかりやすい解説

シャクナゲ

ツツジ科の低木数種をいう。ツツジ類と同属であるが,葉は常緑,厚い革質で光沢がある。花は枝の端に頂生した花芽から十数個散形状に開く。アズマシャクナゲ(シャクナゲとも)は,本州中部〜北部の深山にはえ,高さ2〜3m。花冠は白〜淡紅色で漏斗(ろうと)形,先は5裂し,おしべは10本。ホンシャクナゲ(ツクシシャクナゲ,シャクナゲとも)は本州中部,四国,九州に分布し,高さ約4m,花冠は7裂し,おしべは14本ある。本州,北海道の亜高山帯にはえるハクサンシャクナゲは,アズマシャクナゲに似ているが,花がやや小さく,葉はやや薄くてまるみを帯びる。またキバナシャクナゲは本州,北海道の高山にはえ,アジア北東部にも分布。高さ20〜50cm,枝ははい,淡黄色の花をつける。シャクナゲの類は500種以上が知られ,中国西部〜インド北部の山岳地帯に多い。それらが18世紀ごろヨーロッパに入り,多くの園芸品種が作られた。日本でも20品種余りが作られており,西洋シャクナゲ(いわゆるロドデンドロン)と総称される。
→関連項目ツツジ

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世界大百科事典(旧版)内のシャクナゲの言及

【ツツジ(躑躅)】より

…世界に850種ほどが知られる。 ツツジ属Rhododendronは一般に,落葉性のツツジ類と常緑性のシャクナゲ類に分けられる。しかし日本では昔から,シャクナゲの名はホンシャクナゲの仲間のみに使われ,常緑であってもヒカゲツツジやゲンカイツツジはシャクナゲとは呼ばれなかった。…

※「シャクナゲ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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