伊豆半島中央の東部を占める火山。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
静岡県、伊豆半島中東部に連なる火山群。最高峰は万三郎岳(ばんざぶろうだけ)(1406メートル)で、万二郎(ばんじろう)岳(1300メートル)、箒木(ほうき)山(1024メートル)がそれに次ぎ、連山は東西に延びる。更新世(洪積世)中期以降の活動によって形成された二重火山とも考えられ、成層火山で楯状(たてじょう)の形態をもつ。側火山も多いので天城火山群ともいう。天城火山の基盤は、半島に広く分布する新第三系湯ヶ島層群であり、初期の活動は南方の浅間(せんげん)山、三筋(みすじ)山、登尾(のぼりお)山などを形成し、安山岩質溶岩からなる。次の天城火山本体を形成した活動は、南東流する白田川(しらたがわ)源流部あたりが火口と考えられ、安山岩質溶岩を噴出させた。岩石の変質作用が激しく、山体の解体が進み、侵食カルデラ状の地形を呈する。稜線(りょうせん)に沿う西部の八丁池(はっちょういけ)は側火口であり、東方の遠笠山(とおがさやま)からは多量の溶岩を流出し、天城高原となった。完新世(沖積世。地質時代最後の世)以降にできた側火山には、南西側の鉢山や鉢窪(はちくぼ)山があり、そこからは玄武岩質溶岩も流出し、狩野川(かのがわ)、河津川の谷を埋めて浄蓮ノ滝(じょうれんのたき)や河津七滝(かわづななだる)をつくった。北東側の岩山、矢筈(やはず)山、などの塊状火山は流紋(りゅうもん)岩からなる。約2800年前に活動した白田峠(1197メートル)北側のカワゴ平は、火山灰の噴出と軽石質泥流の流出を特色とし、表層は天城抗火(こうか)石として採取されている。
天城山は古くは狩野山、甘木山ともよばれ、伐木、搬出の歴史も古く、幕府直轄の御料林であった。マツ、スギ、ヒノキ、ケヤキ、クスノキ、サワラ、カシ、モミ、ツガは天城九木とよばれ、御制木として保護されていた。かつては木炭の生産、現在はワサビやシイタケが名産となっている。火山周辺は温泉にも恵まれ、湯ヶ島、湯ヶ野、峰、熱川(あたがわ)、大川などがある。植生にも特色をもち、アセビ、ヒメシャラの樹林、シャクナゲ、アマギツツジの花は天城特有の植物景観となっている。
また、天城高原から尾根伝いに八丁池を経て天城峠に至る縦走コースは、伊豆の代表的なハイキングコースである。
[北川光雄]
静岡県伊豆半島の中東部を占める火山。この半島の最高峰である万三郎(ばんざぶろう)岳(1405m)を主峰とし,洪積世以来長期にわたって形成され,本体はおもに安山岩質の溶岩からなる。本体の形成に先立ってまず南部の浅間山(516m),三筋山(821m),登り尾(1057m)などの活動があり,続いて白田川の源流にあたる主火口から多量の溶岩が北・東の方向に流下して本体が形成された。その後,山腹から山麓にかけて多数の小火山体(寄生火山)が噴出したが,そのうち洪積世末までに形成されたものには八丁池側火口や遠笠山(1197m)などがあり,また沖積世に活動したものには丸野山(696m),鉢窪山(674m),鉢山(619m)などの玄武岩質の岩さい丘と,岩山(602m),矢筈山(816m),孔の山などの流紋岩質の小塊状火山とがある。このうち前者の岩さい丘の形成は,流紋岩質溶岩と浮石とを多量に噴出したカワゴ平火口(約1100m)の活動(約2800年前)よりも古く,一方,後者の塊状火山はそれよりも新しいことが知られている。天城山一帯は富士山や大井川上中流域と並ぶ静岡県下屈指の多雨地域で,中心部での年降水量は3000mmにも達し,そこには広大な国有林が広がっている。古来良材の産で知られたが,江戸時代には天領で松,ヒノキ,杉,ケヤキ,モミなどは御制木として伐採を禁じられていた。狩野川本流とその支流の大見川,河津川などの上流では,豊富な冷湧水を利用して特産のワサビ栽培が行われており,また一帯ではシイタケの栽培も盛んである。天城山周辺には湯ヶ島,湯ヶ野,峰,熱川(あたがわ)などの温泉があり,また八丁池,遠笠山,天城峠,国士峠,浄蓮の滝,河津七滝(かわづななだる)などの景勝地も多く,富士箱根伊豆国立公園に属する。
執筆者:松本 繁樹
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… 近世中期の伊豆は,江戸地回り経済圏に入り,天城炭,伊豆石,海産物等を江戸市場に送った。天城炭は,天城山御林で御用材の原材の下付をうけて製炭,江戸に運搬され,江戸の消費にこたえた。 寛政年間,ラクスマンの根室来航等,海防問題がもち上がると,江戸湾防備上重大な立地をなす伊豆は再び注目され,1793年(寛政5)老中松平定信が伊豆東海岸を巡視したのをはじめ,1808年(文化5)鉄砲方井上左太夫の大筒試射,39年(天保10)鳥居耀蔵,江川英竜の海防見分などがあり,42年下田奉行が再置された。…
※「天城山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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