ツツジ(英語表記)azalea
rosebay
Rhododendron

改訂新版 世界大百科事典 「ツツジ」の意味・わかりやすい解説

ツツジ (躑躅)
azalea
rosebay
Rhododendron

ツツジ科ツツジ属の低木または高木。葉は常緑または落葉性で互生し,鋸歯がなく,先端に水孔がある。花は鐘形ときに筒形で,先が5~8裂する。おしべは花冠裂片と同数か2倍あり,葯は先端に穴が開いて花粉を散らす。蒴果(さくか)は4~5室からなり,室の背面が縦に裂けて多数の小さな種子を散らす。世界に850種ほどが知られる。

 ツツジ属Rhododendronは一般に,落葉性のツツジ類と常緑性のシャクナゲ類に分けられる。しかし日本では昔から,シャクナゲの名はホンシャクナゲの仲間のみに使われ,常緑であってもヒカゲツツジゲンカイツツジはシャクナゲとは呼ばれなかった。ヨーロッパには中国やヒマラヤから常緑性のものが入って園芸化され,ロードデンドロンrhododendronの名は常緑性のものに使われた。これに対して,アメリカの落葉性のものを中心に園芸化されたものをアザレアazaleaと呼んでいる。この概念が第2次世界大戦後日本に入ってきて,従来の概念と食い違って混乱を起こしている。しかし,系統的には常緑と落葉とで本質的な区別はなく,日本のツツジ類は半落葉性で,サクラツツジマルバサツキのような常緑性といえるものもあり,ツツジ類とシャクナゲ類の区別は便宜的なものといえる。

 ツツジ属はエゾツツジを除いて,大きくヒカゲツツジ亜属とツツジ亜属に分けられる。エゾツツジはしばしばツツジ属の一員として扱われるが,花序が長く伸び,大きな永存性の苞葉があり,萼裂片が大きいことなど,ツツジ属よりホツツジ属や北アメリカのクラドタムヌス属Cladothamnusに類縁があると思われ,エゾツツジ属Therorhodionとするのが妥当と思われる。

 ヒカゲツツジ亜属は芽の中で葉が内巻にたたまり,枝や葉は一面に鱗状毛でおおわれている。ツツジ亜属は芽の中で葉が外巻にたたまり,若枝や葉の裏面は無毛か,毛があるときは線状毛,枝状毛,ふけ状毛,糸状毛などさまざまであるが,鱗状毛のものはない。

 ヒカゲツツジ亜属にはゲンカイツツジ節,チベットシャクナゲ節,ヒカゲツツジ節,マレーシアシャクナゲ節などがある。ゲンカイツツジ節は枝先の葉腋(ようえき)ごとに花芽がつき,新葉はその下の葉腋から伸びる。北海道にエゾムラサキツツジR.dauricum L.と,中国地方,四国,九州にゲンカイツツジR.mucronulatum Turcz.がある。チベットシャクナゲ節は中国の四川,雲南からチベット,ヒマラヤの4000~5000mの高所に生育する低木性の種類で,新葉は枝の先端から伸び,花芽はその下の葉腋につく。R.racemosum Fr.がよく栽培される。ヒカゲツツジ節は花芽が枝の先端につき,葉芽はその下にできる。日本には本州の関東以西,四国,九州に分布するヒカゲツツジR.keiskei Miq.と,北海道東部の湿地に生えるサカイツツジR.parvifolium Adamsがあり,朝鮮,中国北部のコゴメツツジR.micranthum Turcz.が栽培される。マレーシアシャクナゲ節は花や葉のつき方はヒカゲツツジ節に似るが,種子の両端に細長いひも状の付属物がある。フィリピン,ボルネオ,マレー半島,ニューギニアなどに分布し,300種ほど知られる。最近いろいろな種類が導入されて栽培されているが,まだ一般的にはなっていない。

 ツツジ亜属は大きく3群に大別される。第1群は花芽と葉芽との区別がなく,一つの芽の中から若葉と花が出てくるもので,ヤマツツジ節とミツバツツジ節とがある。前者の葉は半常緑性で,多くは枝にまばらにつき,春に伸びて冬に落ちる春葉と,秋に伸びて冬を越す秋葉とがある。ミツバツツジ節は葉が3~5枚,枝先に集まってつき,落葉性のものと常緑性のものがあるが,春葉と秋葉の別はない。第2群は花芽と葉芽との別があり,葉芽は枝の先につき,その下に花芽ができる。バイカツツジ節とセイシカ節とがある。前者は花芽は1個の花をもち,果実は球形。後者は花芽に1~5個の花があり,果実は円筒形である。第3群は枝の先端に1個の花芽がつくられ,その下に数個の葉芽があるもので,シャクナゲ節とレンゲツツジ節とがある。前者の葉は草質の常緑性で,裏面の毛は枝状毛,ふけ状毛,袋状毛などさまざまである。レンゲツツジ節は落葉性で,糸状毛か線状毛がある。

 ミツバツツジ節にはクロフネツツジ類,シロヤシオ類,ミツバツツジ類の3群がある。クロフネツツジ類は大きな5枚の葉が枝先に集まってつくが,輪生はしない。花は大きく薄桃色で美しく,おしべは10本。朝鮮半島に分布するクロフネツツジR.schlippenbachii Maxim.のみがあり,日本でもよく栽培される。シロヤシオ類は5枚の葉が枝先に輪生し,花は白色でおしべは5本。本州,四国の太平洋側の山地に分布するシロヤシオ(一名ゴヨウツツジR.quinquefolium Biss et Mooreのみからなる。ミツバツツジ類は3枚の萼が輪生し,花は多く紅紫色である。東アジアに15種ほどあるが,中国に3種あるだけで日本で著しく種分化が起こったものであり,分類の難しい群である。このうちオンツツジR.weyrichii Maxim.,ジングウツツジR.sanctum Nakai,アマギツツジR.amagianum Makinoは葉が十分に展開してから花を開く種類で,他のものが葉の伸びる前に花を開くのと異なる。後者のうちミツバツツジR.dilatatum Miq.は花梗や子房に腺毛が密生し,果実にも腺点があるのが特徴で,関東・東海地方の山地に分布するが,種類としては北海道から九州までの太平洋側に分布し,トサノミツバツツジハヤトミツバツツジなどの変種がある。東北地方南部から近畿東部に分布するトウゴクミツバツツジR.wadanum Makinoや九州に分布するサイゴクミツバツツジR.nudipens Nakai,その亜種で日本海側の山地に分布するユキグニミツバツツジなどは,子房に長毛が密生し,果実にも残る。中部地方西部から西,四国,九州の低山地に生えるコバノミツバツツジR.reticulatum D.Donは子房や果実に長毛のある点は上記のものと同じであるが,葉の裏面の細脈が目だった網目をつくるので,他と容易に区別できる。

 バイカツツジ節は日本にバイカツツジR.semibarbatum Maxim.があるほか,中国に4種ほどと北アメリカに1種ある特殊な群である。

 レンゲツツジ節はムラサキヤシオ類,アケボノツツジ類,オオバツツジ類,レンゲツツジ類の4類がある。アケボノツツジ類とオオバツツジ類は,それぞれ日本に1種しかない特殊な類である。ムラサキヤシオ類は数枚の葉が枝先に集まってつくが,輪生はしない。花冠は鐘形で基部近くから広がって咲く。中部地方の日本海側から東北地方,北海道に分布するムラサキヤシオR.albrechtii Maxim.があるほか,北アメリカに2種類が知られる。オオバツツジ類は葉のつき方はムラサキヤシオ類に似るが,花は小さな筒形であるのが特徴で,北陸地方から東北地方の日本海側の深山に生えるオオバツツジR.nipponicum Matsum.があるだけである。アケボノツツジ類は5枚の葉が枝先に輪生し,花冠は広鐘形で広く開く。本州の紀伊半島以西,四国,九州の太平洋側の山地に分布するアケボノツツジR.pentaphyllum Maxim.と,その変種であるアカヤシオが中部地方から東北地方南部の太平洋側に分布する。レンゲツツジ類は葉は上記の種類と比較すると散らばって枝につき,花冠の下部は細い筒形で上部のみが広く開く特徴をもつ。日本にレンゲツツジR.japonicum Suring.があるほか,中国に1種,カフカスに1種,北アメリカに15種ほどが知られる。これらの種類間の交配によってナップヒル・アザレア,エクスバリー・アザレアなど多くの園芸品が作られている。シャクナゲ節のものは〈シャクナゲ〉の項目で述べる。

 ヤマツツジ節は中国のものがまだよくわかっていないが,ヤマツツジ類,サツキ類,モチツツジ類,コメツツジ類がある。一般にツツジと呼ばれるのはこれらの植物である。コメツツジ類は花がごく小さく,花冠内面に軟毛がある。コメツツジR.tschonoskii Maxim.が日本と朝鮮南部に分布し,オオコメツツジR.trinerve Fr.が日本海側の山地に,中部地方の山地にチョウジコメツツジR.tetramerum (Makino) Komatsuがある。ヤマツツジ類は花は中型か小型,春葉と秋葉で形が異なるものが多く,花冠は質が柔らかで縁にややしわがある。日本にはヤマツツジR.obtusum (Lindl.) Planch.var.kaempferi (Pl.) Wils.,オオヤマツツジR.transiens Nakai,フジツツジR.tosaense Makino,アシタカツツジR.komiyamae Makino,ミヤマキリシマR.kiusianum Makino,ウンゼンツツジR.serpyllifolium (A.Gray) Miq.,タイワンヤマツツジR.simsii Planch.の7種が野生する。サツキ類は花は中型で,春葉と秋葉の形はあまり異ならず,花冠は質やや厚く平板状で,縁はあまり波をうたない。関東以西,四国,九州におしべが5本のサツキR.indicum (L.) Sweetが,九州南部におしべ10本のマルバサツキR.eriocarpum Nakaiがある。モチツツジ類は花も葉も大型で,若枝や花柄に粘毛のあるものが多い。静岡県以西,四国にモチツツジR.macrosepalum Maxim.,中国地方,四国,九州にキシツツジR.ripense Makino,対馬にチョウセンヤマツツジR.yedoense Maxim.,奄美大島から沖縄本島にケラマツツジR.scabrum D.Don,八重山諸島にサキシマツツジR.amanoi Ohwi,小笠原の父島にムニンツツジR.boninense Nakaiがある。
執筆者:

ツツジの花にはバラやボタンの花のような豪華さはないが,庶民的で親しみのもてるかれんさがある。そのような点にひかれてか,古くから世界各地で多くの園芸品種が育成されている。常緑性ツツジの園芸品種は日本で,落葉性ツツジの園芸品種はヨーロッパで育成されたものが多い。日本でつくられたツツジの園芸品種は,ケラマツツジからヒラドツツジ,サタツツジが,ヤマツツジからキリシマやクルメツツジなどが,マルバサツキからサツキの各園芸品種が育成されているように,日本固有の野生種を利用しての品種改良が行われてきた。一方,ヨーロッパでは中国産のタイワンヤマツツジからベルジアン・アザレア,日本産のレンゲツツジやアメリカ産のジャコウツツジ,カフカス産のキバナツツジからエクスバリー・アザレア,ゲーント・アザレアの各園芸品種が改良されているように,他の地域から導入されたツツジの野生種をもとに品種改良が行われている。現在これらのツツジの園芸品種の総数は2000以上にのぼるものとみられ,栽培が容易であるため庭園用,鉢植え用として広く利用されている。今後,より耐寒性,耐暑性の品種,あるいは花色が黄色や青色のツツジ園芸品種が育成されるならば,さらに利用されるようになるであろう。

 おもな園芸品種の特徴は次のとおりである。キリシマR.obtusum Planch.は,小輪で濃紅色の花を数多く咲かせる。枝がよく伸び背の高い樹姿となるので,公園などに植え込むとたいへん美しい。また,枝が伸びる性質を利用して,枝物として生花材料として利用されることも多い。鹿児島県の霧島山に自生するヤマツツジから江戸時代に品種選抜されたもので,日本の園芸ツツジ栽培の草分けとなった品種である。

 クルメツツジは,キリシマと鹿児島県南部に自生するサタツツジを親に,江戸時代末期に久留米で品種改良されたツツジである。小輪で多花性,枝があまり伸びないのでコンパクトな樹型になり,花時には樹冠一面が花でおおわれるようになる。花色は赤,白,桃,紫,淡紫,絞りなどと多彩でひじょうにはでな色彩のツツジであるため,公園や庭木としての利用が多い。大正年間にウィルソンE.H.Wilsonによってアメリカに導入されて以来,ヨーロッパ,アメリカでもクルメ・アザレアの名で広く利用されている。

 ミヤマキリシマR.kiusianum Makinoは九州の1000m以上の高山にだけ自生している極小型のツツジで,花の直径は2cm内外,枝は短くつまり,ツツジ類中ではもっとも小型の部類に属する。かれんな花型とコンパクトな樹姿から小盆栽として利用される場合が多いが,耐寒性もあり庭木としても利用できる。ヨーロッパではダイヤモンド・アザレアとして近年注目をあびるようになっている。

 ヒラドツツジは長崎県平戸市の旧武家屋敷の裏庭に植栽されている大型ツツジのなかから選抜されたツツジとその近縁種の総称で,直径10cm前後の大輪の花をつけ,葉や樹姿も大型となり,平戸市内にある古木では高さ4m以上に達するものがある。南九州から沖縄にかけて自生しているケラマツツジを母体に,モチツツジやキシツツジ,リュウキュウツツジが自然交雑してできたものである。花色は紅,紫,桃,白と多彩であり,早く育つので公園や街路植栽用によく利用されている。耐寒性が弱いので利用は西日本が中心になるが,オオムラサキのような耐寒種もこの仲間に入る。

 リュウキュウツツジR.mucronatum G.Donは日本に野生のあるキシツツジとモチツツジの間の雑種性のツツジとみられる。たいへんじょうぶで,耐湿性,耐寒性があるため,江戸時代からリュウキュウツツジの名で栽培されてきた。花色は白であるが,近縁種には淡紫のもの,絞りのものもある。品種には関寺(せきでら),藤万葉,白万葉などがある。またモチツツジそのものの品種には胡蝶揃(こちようぞろい),花車(はなぐるま),青海波(せいかいは),駿河万葉(するがまんよう)がある。

 サツキはツツジの仲間であるが,江戸時代からツツジとサツキは区別されてきた。花型,樹姿にそれほど差はないが,花の時期がサツキは5~6月でツツジより際だって遅いのが特色で,サツキの名もこれにちなんでいる。西日本各地に野生しているサツキと吐噶喇(とから)列島付近に野生しているマルバサツキの交雑によって品種ができたもので,両親の形質が対照的であるため,サツキの園芸品種は変異の幅がたいへん広く,サツキ愛好熱の高まる一つの理由になっている。花色は紅紫,桃,白のほか,絞り花や底白花など,変化のおもしろ味があることや,樹姿,葉姿の均整がとれて美しいことから盆栽としてよく利用されている。また,刈込みにも耐える性質をもっていることから,庭園用樹としても利用が盛んである。

 ベルジアン・アザレアBelgian azaleaは中国産のタイワンヤマツツジを母体に,1800年代にベルギーその他のヨーロッパ諸国で品種改良されたツツジで,温室で促成開花させる鉢用のツツジである。本来はベルジアン・アザレアと呼ぶべきであるが,日本では単にアザレアと呼ばれ,冬の鉢花の人気種の一つになっている。大輪で完全な八重咲きの花はたいへん豪華であり,花の美しさでは他のツツジの追随を許さない。ただ,本来温室促成用に改良されているので,耐寒性がなく,露地での越冬は難しい。花色は紅,紫,桃色のほか覆輪の美しい品種が多数含まれている。

 エクスバリー・アザレアExbury azaleaは日本産のレンゲツツジと中国産のシナレンゲツツジ,カフカス産のキバナツツジ,アメリカ産のシベナガツツジ,ジャコウツツジなど,落葉性のツツジが種々交雑されてイギリスで育成された落葉性ツツジの品種群で,ヨーロッパでとくに栽培が盛んである。花色は紅,桃,白,黄と多彩で,濃厚な色彩のものが多い。耐寒性が強い反面,耐暑性に欠けるので,西日本で栽培する場合は西日を避ける場所に植える必要がある。

繁殖は一般に挿木による。常緑性ツツジはほぼ一年中挿木できるが,地温が15~20℃の季節がいちばん早く発根する。落葉性のツツジは挿木が困難のものが多いが,新芽が固まった6月か,秋に挿木すると発根するものもある。挿木の難しいものは,秋に採った種子を乾燥貯蔵しておき,3月に播種(はしゆ)する。ツツジは陽光を好むので,日当りのよい場所に植えるのがよい。水はけが悪いと根腐れを起こしやすい。酸性土壌を好むので,植え穴にはピート,腐葉土などの有機質を多量に混入するのがよい。花芽は7~8月に分化するので,それ以後に刈り込むと翌年の花が咲かなくなる。剪定(せんてい)は花後すぐに行うのがよい。肥料は油かすを株の周辺の地表に置肥するのが安全で,化学肥料は根を傷めるおそれがあるので注意を要する。ダニ,グンバイムシなどの害虫や褐斑病の発生がよくみられるので,5月から9月までは定期的に薬剤散布を行うとよい。
執筆者:

双子葉植物,合弁花類。小低木から高木まである。葉は互生し,まれに対生または輪生,単葉。花は両性で放射相称,まれに左右相称。花冠は合弁,まれに離生し,漏斗形,鐘形,つぼ形,筒形。おしべは花冠裂片と同数または2倍。葯は2室で,多くは先端に穴が開いて花粉を散らす。子房は上位または下位,2~5室からなり,多数の胚珠をもつ。果実は蒴果(さくか),液果または核果。50属1300種ほどが知られ,オーストラリアを除く世界の各大陸に広く分布し,温帯から寒帯に多く,風当りの強い岩地や酸性土壌を好む傾向がある。胎座が深く2裂するツツジ亜科,イワナシ亜科と,胎座が分裂しないスノキ亜科,エリカ亜科に大別される。ツツジ,シャクナゲ,エリカなど花が美しく観賞されるものが多い。また液果を生じるコケモモクロマメノキブルーベリーなどは,その果実が食用にされ,ジャムを作る。
執筆者:

初夏に咲くツツジは農耕開始の象徴とされた。とくに,卯月八日(うづきようか)には〈天道花(てんとうばな)〉といって山から採ってきたフジ,ヤマブキ,ツツジなどの花をさおの先につけて庭先に立てる風習は広く行われたが,天道花は山から神を招く依代(よりしろ)とされたのである。また奈良県の明日香村では,八十八夜前後に苗代に播種した後に,牛玉(ごおう)宝印の札と松の枝にツツジの花をそえて田の水口にさす風もみられた。このように,ツツジは温床苗代の普及する以前には深く農作業と結びついており,各種の作物の播種の目安ともされた。このほか,ツツジの花のよく咲いた年は雪が多い,雷が多い,豊作になるなどと,花で天気や作柄を占う風もある。赤いツツジの花は神聖視され,仏壇に供えたりあるいはふだんの日に家に持ち帰ったりすると火事になるといって嫌われた。鹿児島のカヤカベ教(かくれ念仏の一つ)の教徒の間でもツバキとツツジは神聖な花として忌まれた。また卯月八日のツツジの花を燃やして出る煙の方向に行方不明者をさがしに行ったり,天道花のさおの高低で生まれてくる子どもの性別を占う風もかつてみられた。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツツジ」の意味・わかりやすい解説

ツツジ
つつじ / 躑躅
Azalea

ツツジ科(APG分類:ツツジ科)ツツジ属Rhododendronのうち、シャクナゲ類を除いた半常緑性または落葉性のものの総称。主として北半球に分布し、マレーシア、オーストラリアにもある。日本には山野に多数の種類が野生しており、また、多くの園芸品種とともに広く観賞のために栽培されている。一般には株立ち状の低木が多いが、小高木となり、小枝をよく分けるものもある。花冠は漏斗(ろうと)形で5裂するものが多く、まれに筒状のものもある。花色は白、淡紅、紅、赤、紫色など変化に富む。雄しべは5本または10本であるが、数の不定のものもある。花糸は細長く、花筒から出て、葯(やく)は先端にある小孔から花粉を出す。子房は上位で花柱は細長い。果実は蒴果(さくか)。

 日本の山野に分布するおもな野生種としては、ヤマツツジ亜属のヤマツツジ、モチツツジ、キシツツジ、ケラマツツジ、サツキ、ミヤマキリシマ、ウンゼンツツジ、コメツツジ、そして、レンゲツツジ、アケボノツツジ、ムラサキヤシオツツジ、ミツバツツジ、オンツツジ、ゴヨウツツジなどがあり、広義にはバイカツツジ亜属のバイカツツジ、ゲンカイツツジ亜属のゲンカイツツジ、エゾムラサキツツジなどもツツジ類として扱われ、半常緑性のものもあって、シャクナゲ類との区別は明らかでなくなる。

 園芸品種には野生種から出たもののほかに、交雑によってつくられた多数の品種がある。そのおもなものはキリシマツツジ(クルメツツジを含む)、サツキ、リュウキュウツツジ、ヒラドツツジ、オオムラサキなど、日本で作出された品種も多い。また、セイヨウツツジ(一般にアザレアの名でよばれる)にも多くの品種がある。

[小林義雄 2021年4月16日]

栽培

花木として庭園や公園にもっとも普通に植栽されるほか、鉢植えやいけ花にも利用され、広く観賞されている。酸性土壌の山地に多く野生するが、一般には日当りのよい場所で、排水と保水のよい壌土でよく育つ。細根が多いので、移植は一般に容易で、盛夏と厳寒を除けばよく活着する。最適期は、落葉性のものは開葉前の3月中旬から下旬がよく、半常緑性のものは開花前がよい。肥料は堆肥(たいひ)に油かすを加えて施すか、遅効性の粒状混合肥料を用いる。刈り込み、剪定(せんてい)に耐えるが、一般に花芽の分化期は7月ころであるから、剪定は花期後、6月中には済ませる。それ以後の剪定は次年の花つきを悪くする。

 繁殖は一般には挿木による。挿床は鹿沼土(かぬまつち)または赤土を用い、梅雨期に行うが、4月、9月でも活着する。挿木が困難な種類もあり、この場合は実生(みしょう)による。消毒したミズゴケや良質のピートモスを床土にして播(ま)くとよく発芽する。しかし、実生の場合は立枯病が出やすいので、管理に注意する。ツツジ類は一般にじょうぶで病害虫にも強い。おもな害虫に、新芽とつぼみを食害するベニモンアオリンガ、ルリチュウレンジバチがあり、これには「スミチオン」「デナポン」などを散布する。葉裏について吸汁するツツジグンバイには「スミチオン」「マラソン」などを散布するとよい。病害の花腐菌核(はなぐされきんかく)病は薬剤散布による防除がむずかしく、褐斑(かっぱん)病、黒紋病は4‐4式ボルドー合剤、銅水和剤を散布して予防する。

[小林義雄 2021年4月16日]

名所・天然記念物

名勝地には群馬県館林(たてばやし)市のつつじが岡公園がある。国の天然記念物としては北海道の落石岬(おちいしみさき)サカイツツジ自生地、群馬県の湯の丸レンゲツツジ群落、山梨県の躑躅原レンゲツツジおよびフジザクラ群落と美森(うつくしもり)の大ヤマツツジ、徳島県船窪(ふなくぼ)のオンツツジ群落、大分県の大船山(たいせんざん)のミヤマキリシマ群落、長崎県の池の原ミヤマキリシマ群落などがある。

[小林義雄 2021年4月16日]

文化史

ツツジの名は、『出雲国風土記(いずものくにふどき)』(733)に、大原郡の山野に生える植物として茵芊が初見し、『万葉集』では、茵花、都追茲花、白管仕、白管自、丹管士、石管士の名で9首詠まれている。2巻に「水伝(みなつた)ふ磯(いそ)の浦廻(うらみ)の石管士(いわつつじ)茂(も)く咲く道をまた見なむかも」と歌われているが、この磯の浦廻は、天武(てんむ)天皇と持統(じとう)天皇の子、日並知(ひなめし)(草壁(くさかべ))皇子の宮殿の庭園にあり、すでにツツジが栽培下にあったことが知られる。ツツジの品種は江戸時代に爆発的に増え、水野元勝は『花壇綱目』で147品種を取り上げた。それにはサツキの名はないが、三之丞(さんのじょう)(伊藤伊兵衛)は『錦繍枕(きんしゅうまくら)』で、ツツジを173、サツキを162品種解説した。そのサツキのうち、「せい白く」など9品種は『花壇綱目』のなかに名がみえる。『錦繍枕』でサツキの3名花とされたうち、「まつしま」「さつまくれない」をはじめ、「ざい」「みねの雪」「高砂(たかさご)」など現在にも若干の品種は伝えられているが、大半は消失した。明治の末ごろからふたたびサツキを中心とするツツジが流行し、現代に続く。海外では19世紀以降、アザレアの改良が進み、クルメツツジ、レンゲツツジ、タイワンヤマツツジなどが関与した。

[湯浅浩史 2021年4月16日]


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百科事典マイペディア 「ツツジ」の意味・わかりやすい解説

ツツジ

ツツジ科ツツジ属の低木〜小高木。常緑のものと落葉のものがあり,花の大きさ,色はさまざまで,世界に約850種,日本に40〜50種が自生する。花の美しいものが多く,古くから栽培され,また多くの栽培品種がつくられている。分類のむずかしいグループで,円形鱗状毛の有無,花芽の位置,数,花芽の中の花の数,混芽の有無などによって分類されるが,例外も多い。日本の野生種はふつう次の9群に分けられる。1.芽の中で葉が内巻きにたたまれ,枝や葉に円形鱗状毛があるもの。これには常緑で,花芽が1個頂生し2個以上の花が開くヒカゲツツジ群と,落葉で花芽が1〜4個頂生し,それぞれが1花を開くゲンカイツツジ群がある。2.芽の中で葉が外巻きにたたまれ,若枝や葉に円形鱗状毛のないもの。これに7群がある。花芽が1〜数個側生するのがバイカツツジ群。花芽が枝端に頂生するものでは,a.花が頂生の花芽に生ずるものと,b.花が頂生の混芽中に葉とともに生ずるものがある。aには葉が革質で常緑のシャクナゲ群,葉が薄く落葉性で,花冠が筒状,放射相称のオオバツツジ群と,花冠が漏斗(ろうと)状で広く開き,左右相称のレンゲツツジ群がある。bには葉が春に出て冬を越さず,3〜5個やや輪生するミツバツツジ群と,葉が春と秋に出て,秋葉が冬を越し,幅の広い毛のあるヤマツツジ群がある。以上は花序が散形,散房状をなすが,総状花序をなすものにエゾツツジ群がある。しかしこれは他の性質も多少違うので別属とする説もある。 以上は広義のツツジであるが,シャクナゲ群は別に扱われることが多く,また庭などに植えられる狭義のツツジはほとんどがヤマツツジ群で,ヤマツツジ,キリシマツツジ,ミヤマキリシマサツキ,コメツツジ,モチツツジ,キシツツジなどがある。園芸品種もクルメツツジ,オオムラサキ,シロリュウキュウツツジ,ムラサキリュウキュウツツジ,セキデラなど500種以上といわれるが,特にサツキとミヤマキリシマからは多くの品種が作られている。花期が1ヵ月ほど遅いサツキは園芸的に区別して扱われることも多い。またアザレアは外国種として著名。なおツツジ類の材は緻密(ちみつ)で細工物などにもされる。
→関連項目合弁花両神山

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツツジ」の意味・わかりやすい解説

ツツジ
Rhododendron

ツツジ科のツツジ属の総称。シャクナゲ類とツツジ類の2つに大別され,一般にツツジという場合は後者をさす。日本や中国に多くの種類があり,大部分は落葉低木であるが,常緑のものもある。幹はよく分枝し,葉は互生する。花は普通前年の枝の先につき,花冠は漏斗状で5裂し,放射相称であるが,多少ゆがんで左右相称になる。おしべは5本または 10本で,葯 (やく) は先端に孔があって花粉を出す。花糸および花柱は細長く,ともに花冠より突き出る。4~8室から成る上位子房はのちに 蒴果を結ぶ。種類数が多く,庭園の花木として広く世界的に栽培され,多数の園芸品種も育成されている。おもな野生種には,ヤマツツジ (山躑躅)モチツツジミツバツツジ (三葉躑躅)レンゲツツジ (蓮華躑躅)などがある。

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世界大百科事典(旧版)内のツツジの言及

【ヤナギラン(柳蘭)】より

…ヤナギランは,日本のほか北半球の北部全域に広く分布している。英名をrosebay,willow herb,fireweed,wicopyという。茎は高さ0.5~1m,あまり分枝しない。…

※「ツツジ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

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