ドイツの医学者、化学者。プロテスタントの牧師の子としてアンスバハに生まれる。イエナ大学で医学を修めたのち、ワイマール侯侍医、ハレ大学教授(1694)を経て、プロイセン宮廷医(1715)となる。『真正医学論』(1707)や『硫黄(いおう)についての論争』(1718)など多数の著作を発表した。
医学理論において、生物と無生物とを峻別(しゅんべつ)し、前者にはその活性原理である非物質の理性的「アニマ」が存在し、生命諸活動を統轄するというアニミズムを唱えた。疾病はこのアニマの誤謬(ごびゅう)や外部からの阻害から生じ、治療はアニマによる自然的過程を援助することにあり、医化学を否定して瀉血(しゃけつ)などの排出療法を旨とした。このアニミズムは当時の機械論的趨勢(すうせい)に対する反動であったが、18世紀後半の生気論の台頭の先鞭(せんべん)となった。
化学における彼の影響は著大であった。冶金(やきん)や硫酸製造が重要産業であったこの時代には古代以来の四元素説は不十分なものとなっていた。シュタールはベッヒャーの色や可燃性の原質「油性の土」をフロギストン(燃素)と改名し、燃焼とは可燃物中のそれが空気中に逸出する過程であるとした。金属や硫黄、木は燃焼するとそれぞれフロギストンおよび金属灰、煙霧(水と結合して硫酸になる)、灰を生成する。植物は空気中のフロギストンを吸収してそれに富み、金属灰は木炭からそれを得て金属となる。フロギストン自体は単独では存在せず、直接の知覚はできないとした。また、定量的不整合、性質を担う元素という古い思考様式などの弱点をもっていた。しかし、酸素などの気体の知られていなかった当時、酸化現象一般をフロギストンという物質の移動によって統一的に理解した理論は化学者の支持を受け、18世紀末にラボアジエによってとどめを刺されるまで一時代を画した。
[肱岡義人]
『川喜田愛郎著『近代医学の史的基盤 上』(1977・岩波書店)』▽『島尾永康著『物質理論の探求』(岩波新書)』
ドイツの医者。イェーナ大学で医学,化学を学び,同校講師を経てハレ大学教授となり,生理学,病理学,薬物学,植物学を教え,晩年をベルリンの宮廷医として送った。生気論派の彼は,機械論派のF.ホフマン,物理化学折衷派のH.ブールハーフェとともに,体系医学派の3大家といわれる。彼のアニミスムス(精神論)によれば,アニマは感覚,運動,栄養摂取,排出など,あらゆる生活現象の本源で,外的有害要素に対するアニマの反応が疾病であり,この力を補うことを治療方針とした。主著に《真正医学説Theoria medicavera》(1708)がある。彼が唱えたアニミスムスは18世紀後半の生気論の口火となった。また,1703年燃焼という現象を説明するために物理元素の一つとしてフロギストンの存在を仮定し,〈物体が燃えるとき,物体のなかからフロギストンが迅速な旋回運動をして逃げ去る〉というフロギストン説を提唱したことは名高い。
執筆者:古川 明
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ドイツの化学者.1684年イエナ大学で医学博士号を取得し,そこで化学を教えた後,ワイマールに招かれ宮廷付医師となる.7年後,新設のハレ大学で医学教授となり,医学と化学を教えた.1715年プロシア王フリードリヒⅠ世に招かれてベルリンで宮廷付医師となり,終生その地位に留まる.J.J. Becher(1635~1682年)の“地下の自然学”や“化学用語対照辞典”に多くを負いつつ,18世紀の化学を導く包括的な化学理論を形成した.主著は,“理論的実験的化学の基礎”(1723~1732年)と“普遍化学の哲学的原理”(1730年).フロギストン説の創始者として有名だが,それはかれの学説の根本ではなかった.むしろ,親和性の法則などにより,A.L. Lavoisier(ラボアジエ)以前のフランス化学界に,シュタール主義とよばれる枠組みを共有する学派を形成した点が重要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…やがて法治国家の観念の重点は,国家作用の目的よりはむしろその手段方法におかれるようになった。そこではフリードリヒ・ユリウス・シュタールFriedrich Julius Stahlの述べるところが,注目される。彼によれば,〈国家は法治国家たるべきだ。…
…1669年ベッヒャーJohan Joachim Becher(1635‐82)は,古代ギリシア時代から漠然と考えられていた可燃性の本体に〈油性の土〉という名を与えた。この考え方をさらに推し進めたG.E.シュタールは,可燃性の本体を〈点火する〉という意味のギリシア語にちなんで〈フロギストンphlogiston〉と命名した。フロギストン説によると,燃焼は可燃性物質からのフロギストンの放出であった。…
…金属は主としてこうした3種の〈土〉の変成過程のなかで完成されていく,という錬金術の発想が背景となっている。 同じ背景のもとに,G.E.シュタールは,金属の煆焼(かしよう)(灰化)とその再生という錬金術上の問題に,ベッヒャーの〈油性の土〉説を応用しようと試み,フロギストン説を立てた。 すなわち,煆焼とは金属内に含まれるフロギストンの解離であり,それにフロギストンを与える(現代流にいえば還元である)と灰化金属(金属酸化物)は再生する。…
※「シュタール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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