フロギストン説(読み)ふろぎすとんせつ(英語表記)phlogiston theory

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フロギストン説」の意味・わかりやすい解説

フロギストン説
ふろぎすとんせつ
phlogiston theory

17世紀後半から18世紀後半まで約100年間にわたって化学現象説明に支配的地位を占めた化学理論。フロギストンとはギリシア語の「燃える」という形容詞に由来することばで、仮想物質である。フロギストン説の創始者はドイツの医者のベッヒャーで、彼は固体の土性物質は一般に三つの成分を含み、すべての可燃性物質には油性の土が含まれるとした。18世紀初め、ドイツのシュタールはベッヒャーの説を受け継ぎ、油性の土(可燃性土元素)をフロギストンと名づけた。彼は、フロギストンは可燃物質や金属などの中にすべて含まれており、とくに木炭硫黄(いおう)、油など燃えやすい物質は多量のフロギストンとわずかの灰からできており、燃焼は可燃物質からフロギストンが放出され、灰が残る現象と考えた。金属の灰化(酸化)も同じ現象である。フロギストン説は化学現象を統一的に説明する理論として、18世紀なかばには広く受け入れられた。キャベンディッシュベリマンプリーストリー、ブラックら当時の有力な化学者はその存在を信じ、その実験的成果をすべてフロギストン理論で説明した。フロギストン説は広く支持されたが、「重さ」についての欠点をもっており、重さを量りながら化学変化(質的変化)を追究する定量的な方法が発展するなかで、ラボアジエがフロギストン説に疑問をもち、さまざまな燃焼実験を通じて酸素役割を明らかにし、フロギストン説を否定するに至った。

渡辺 伸]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フロギストン説」の意味・わかりやすい解説

フロギストン説
フロギストンせつ
phlogiston theory

物が燃える現象を物質の分解と解釈し,燃焼の際に物質からフロギストン (燃素) という一種の元素が放出されるとした学説。 18世紀初めに G.シュタールによって唱えられた。約1世紀の間多くの支持者を得た反面,金属が燃えたとき,その灰のほうが重いというような説明のつかないこともあり,化学反応の研究が定量的になるにつれて廃棄された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報