翻訳|think tank
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
大規模な実験設備を用いず,主として人間の頭脳と各種調査手法およびコンピューターなどを駆使して,政策や企業戦略の策定に資することを目的とした研究を行う調査研究機関をいう。think factory,brain bankなどの表現が用いられることもあり,日本ではシンクタンクという言葉をそのまま用いることが多いが,〈頭脳集団〉〈頭脳工場〉〈総合研究所〉などと訳される場合もある。語源は明確でないが,1900年代初頭の俗語辞典に頭脳を意味するものとして登場したといわれ,60年代になって近代的シンクタンクがつぎつぎに出現するに至り,今日的意味合いへ転用されるようになったものであろう。
特色としてあげられるのは次のような点である。(1)政策提言を志向していること,(2)幅広い領域について学際的なアプローチを行えること,(3)新しい手法を志向していること,(4)自由な思考が可能な独立性を有していること。
先駆的なものとしては,研究開発を営利目的とした独立研究機関のはしりであるトマス・エジソンの研究所,政策志向のフランクリン研究所,化学コンサルタント企業として1886年に発足したアーサー・D.リトル社などがあげられ,さらにブルッキングズ研究所,アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所その他の研究所が生まれている。
しかし,本格的な近代的シンクタンクの草分けは1948年に設立されたランド研究所といわれており,内外のシンクタンクに大きな影響を与えた。60年代には政府資金のほか,民間財団においても政策研究に対する資金を拡充したため,アメリカのシンクタンクは急速な発展を遂げて今日に至っている。
日本では,環境問題,過密・過疎,国際化など,複雑化する政策課題に対して,長期的・総合的観点に立った政策や企業戦略樹立の必要性が認識され,70年代初めには設立ブームを生んだ。さらに70年代後半以降,地方におけるシンクタンク(財団法人の形態をとるものが多い)の設立が多くみられる。中立的な立場から総合的に政策研究を推進する機関として,総合研究開発機構法(1973制定)に基づき,総合研究開発機構(NIRA)が74年3月設立された。ここでは,政府,地方公共団体および民間からの出資と寄付による基金をベースに,21世紀への課題,エネルギー,国際関係,人間環境,経済発展,地域政策などの広範な課題について,自由研究・委託研究を行うと同時に,民間シンクタンクに対する研究助成を行っている。
NIRAが82年に実施した調査によれば,日本の調査研究機関は200機関余りあるが,そのうち調査研究事業のシェアが半分以上を占めているのは2/3であり,コンピューター計算,エンジニアリング,コンサルタントなどの業務と兼業しているところが多い。さらに,シンクタンクと呼ぶにふさわしいものとなると,数はいっそう限られ,1971年民間シンクタンクの交流組織として発足した日本シンクタンク協議会のメンバーは,野村総合研究所,三菱総合研究所など二十数社にすぎない。
その後,NIRAが96年に実施した調査によれば,日本の調査研究機関は400機関余りあるが,そのうち調査研究事業のシェアが半分以上を占めているのは2/3であり,ソフトウェア開発,エンジニアリング,コンサルタントなどの業務と兼業しているところが多い。
前記NIRAの調査によれば,350機関の95年度総収入は6538億円,うち調査研究受託収入は1904億円で,残りはその他事業収入や基金運用,会費収入などである。また,職員数は総数3万3000人,うち研究部門1万2000人で,機関数の60%,研究者・収入の80%が首都圏に集中している。また,規模別に見ても,研究者数20人未満が70%を占めている。委託研究プロジェクト収入は公共部門から38%,民間から51%であった。これらの数字からも,日本のシンクタンクの規模の小ささ,経営基盤の脆弱(ぜいじやく)さなどがうかがえる。
アメリカの場合,政治・行政システムがシンクタンクの活動の余地を大きく与えており,人の交流も含めて,政府に対するシンクタンクの影響力は大きい。表におもなシンクタンクの概要を示す。
ヨーロッパでは,イギリスの王立国際問題研究所,国際戦略研究所,政策科学研究所,フランスのアトランティック・インスティチュート,ドイツのIFO研究所,ハンブルク経済研究所などが,シンクタンクとして知られている。
執筆者:並木 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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