本来はイギリスのロンドン市内の一地名であったが,現在はロンドン警視庁の別名として知られている。ロンドンの中央部,テムズ川北岸べり,現在国鉄チャリング・クロス駅の西側に,この名で呼ばれる地があった。かつてイングランドとスコットランドが別の国であったころ,スコットランド国王や大使が,イングランド王室を訪ねたおりに泊まる屋敷があったために,スコットランドのヤード(囲い庭)という名がついた。1603年以後,イングランドとスコットランドは1人の王の統治下(同君連合)となり,さらに1707年両国は合同したため,この屋敷は不要となり,政府所管となった。
1829年,R.ピール内相のもとではじめて首都警察(すなわちロンドン警視庁)が設けられたとき,この建物を本拠とした。表玄関側の通りがホワイトホール・プレース,裏側の通りがスコットランド・ヤードと呼ばれていたが,なぜか裏通りの名のほうが有名となり,以後警視庁の別名となってしまった。91年に,手狭になったため,警視庁はテムズ川のやや川上,ウェストミンスター橋北詰め近くの新しい建物に移ったが,すっかり定着した別称を捨てるにしのびず,新庁舎の地名をニュー・スコットランド・ヤードと定めた。しかし,ここもまた手狭となり,1967年に少し西側の新庁舎に移転することとなったが,この3度目の地もニュー・スコットランド・ヤードと名づけられ現在に至る。
執筆者:小池 滋
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ロンドンにある首都警察、Metropolitan Policeの別称。1829年の創立時代、詰め所と後部出入口が、昔のスコットランド・ヤード(スコットランド王のロンドン屋敷跡)に向いていたために、その名のほうが一般的になった。創立当時は、制服警官のみの構成で、すべての警察活動を行っていたが、1843年、ロンドンに凶悪殺人事件が続発したときから、初めて私服の探偵が専任する犯罪捜査局が設けられ、これがのちにCIDという略称でよばれて、強力な犯罪捜査組織の中心になるようになった。その管轄はロンドン市内と、その周辺地区の一部。
イギリスは一貫した自治警察組織国家であるが、重大な犯罪事件また難事件にあっては、地方自治警察の要請によってスコットランド・ヤードが出動し、CIDの豊富な経験と、資料を元にして捜査にあたる。現在、世界的に広く行われている刑事活動の始まりともなったもので、早くも1850年に、このスコットランド・ヤードの探偵が登場する小説をディケンズが発表し、以後、イギリス推理小説や映画などで数々のスコットランド・ヤード刑事が生まれ、その存在を世界的に有名にした。スコットランド・ヤードは、国家的な政治犯罪、騒乱についても捜査権をもち、内務大臣の指揮、命令ができる機関である。
[梶 龍雄]
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