ステレオ再生装置(読み)すてれおさいせいそうち(その他表記)stereophonic sound reproducer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ステレオ再生装置」の意味・わかりやすい解説

ステレオ再生装置
すてれおさいせいそうち
stereophonic sound reproducer

2系統以上の独立した信号系を備え、複数のスピーカーまたはイヤホンヘッドホン)を通じて、立体音響再生(ステレオホニック再生)を行う装置をいう。

[吉川昭吉郎]

立体音響

われわれが日常聴く音は、空間に分布して存在するいろいろな音源から出ている。このような音を聴いて音源の方向を知ったり、広がりを感じたりするのは、われわれが左右二つの耳をもっていて、それぞれの耳に入る音の強さや時間の違いを比較することにより行われると考えられている。

 音をマイクロホンで受けて電気信号に変え、伝送路(放送電波など)や録音媒体(磁気テープ、ディスクレコード、コンパクトディスクなど)を介してスピーカーから再生する場合、もっとも簡単なやり方は、モノホニック再生で、1個のマイクロホン、1系統の伝送路または記録媒体、および1個のスピーカーを使う方法である。この場合、スピーカーから再生される音はマイクロホンを置いた位置に存在した音だけであって、楽器などの発音体がたくさん立体的に配置されていても、その立体的な感覚を再生することはできない。これに対して、2個以上のマイクロホンを使って収音し、収音した音の電気信号を独立な2系統以上の伝送路または録音媒体を介して、2個以上のスピーカーから再生すると、もとの音の空間的な分布を再現することができ、その結果われわれは立体的な音を感覚する。このような感覚を立体音響、またはステレオホニーとよぶ。

 2系統の伝送路または録音媒体を使うものを2チャンネル・ステレオ、3系統以上の伝送路または録音媒体を使うものをマルチチャンネルオーディオとよぶことがある。ステレオ再生装置は、このような立体音響を再生する装置である。

[吉川昭吉郎]

歴史

ステレオ再生装置の試みは古くから行われており、1925年にはアメリカでAM放送(振幅変調amplitude modulation方式を使った放送)の2波を用いたステレオ放送実験が行われている。歴史的に有名なのが、1933年にアメリカのベル研究所で行われたものである。フィラデルフィア音楽大学のホールで行われたフィラデルフィア管弦楽団実演を舞台上に並べた3本のマイクロホンで収音し、これを3系統の電話回線でワシントンのコンスティテューション・ホールに送って、3個のスピーカーから再生した。この実験は大成功を収め、ステレオ再生装置に関係するいろいろな要因が把握された。しかし、3系統の伝送路を使うことが高価につくこと、ステレオ録音に適した高品質の録音媒体が得られなかったことなどの事情で、ステレオ再生が一般に使われるには、なおしばらくの時間が必要であった。

 1947年ころになると、磁気録音機で2系統のステレオ録音が行えるようになり、ステレオ再生装置が一般化するようになった。1957年には、45―45方式とよばれるディスクレコードのステレオ録音方式が提案され、ディスクレコードの標準方式となった。

 一方、放送では1950年にフランスで、また1952年(昭和27)にアメリカおよび日本(NHK)でAM2波によるステレオ放送の実験放送が行われた。NHKでは同年定期番組のステレオ放送をいち早く開始した。また民間放送3社のAM3波によるステレオ放送の実験なども行われた。1969年にはFMステレオ放送(周波数変調frequency modulation方式を使ったステレオ放送)が国内で開始され、現在に至っている。

 オーディオ録音、ラジオ放送、テレビジョン放送、映画などの分野が、アナログ技術主体で行われていたときは、音声のステレオ化には制約があり、さまざまなくふうもその制約のなかで行われていた。これらの分野が、デジタル技術が主体で行われるようになると、信号処理上の制約が少なくなり、音声のステレオ化が急速に進むことになる。2チャンネル・ステレオだけでなく、マルチチャンネルオーディオも急速に普及する。家庭向けテレビジョン放送の音声が2チャンネル・ステレオで製作されることも多くなり、コンテンツによってはマルチチャンネルオーディオが採用されることも多い。

 業務用映画の音声は2チャンネル・ステレオが一般的になり、最新作はマルチチャンネルオーディオがごくあたりまえになっている。

 マルチチャンネルオーディオについては、「マルチチャンネルオーディオ」の項で詳述するので、参照されたい。

[吉川昭吉郎]

ステレオ再生系

ステレオ再生にあたって、理論的には系統の数(チャンネル数)が多いほどもとの音に近い立体音響が得られるが、オーディオシステムでは2チャンネル・ステレオが主流である。2チャンネル・ステレオの再生においては前方左右にスピーカーを配置し、これらのスピーカーとほぼ正三角形をなすような位置で聴くのが標準とされている。

 3チャンネル以上の系を使えば、聴者が音に囲まれたような効果(サラウンド効果などとよばれる)を得ることができる。このような系は、オーディオ独自よりも映像システムと共用して、臨場感を強調する目的などに使われることが多い。

 オーディオにおいて、かつて4チャンネル・ステレオと称するマルチチャンネル・システムが提案され、商品化されたことがあるが、アナログ技術の制約のなかで不十分な効果しか得られなかったこと、提案が乱立して規格の標準化に失敗したこと、などのためユーザーの支持が得られず、短期間で消滅した。

[吉川昭吉郎]

ステレオの放送と録音

ステレオの放送はFMで行われる。日本では80メガ~90メガヘルツの帯域を使っている。左右の信号はマトリックス方式とよばれる方法を使って一つにまとめて送出する。受信時には、一つにまとめられた信号を送出時とは逆の方法でもとの左右それぞれの成分に分離してスピーカーに加える。ステレオのディスクレコードは、90度の交差角をもつV字形の溝の左壁面および右壁面にそれぞれ左と右の信号成分を入れる。磁気テープ録音では1本のテープに複数の録音トラックを設け、左右の信号の録音に使う。これらはすべて左右の信号を同時に並列に伝送したり記録したりするものであるが、デジタル伝送またはデジタル記録では、かならずしも左右の成分を同時に並列に送る必要はなく、非常に速い速度で左右信号を切り替えて交互に伝送したり収録したりすることにより一つの伝送や記録媒体でステレオ化することもできる。

 なお、ディスクレコードは録音時にアメリカのレコード工業会Recording Industry Association of America(RIAA)が定めたRIAA録音特性によって、低音域のレベルを低く、高音域のレベルを高くしている。このため、再生時にはこの逆の特性をもつ回路を通して本来のレベルに戻してやる必要がある。この回路をイコライザーequalizer(等化器)とよぶ。

[吉川昭吉郎]

再生装置の構成

再生装置は、ステレオ放送受信用チューナー、レコードプレーヤー(CDプレーヤーを含む)、テープレコーダーなど、ステレオの音響信号を得るための要素のすべてまたは一部を備え、これらから取り出される信号を選択して音量や音質をコントロールする前置増幅器(プリアンプ)、その出力を増幅してスピーカーに供給する電力増幅器(パワーアンプ)、およびスピーカーから構成される。構成の仕方にはいろいろある。慣例的な呼称であるが、すべての部分を一体とし、家具的に構成したアンサンブル・ステレオ、チューナーとレコードプレーヤーおよび増幅器などの部分を一体とし、これと左右二つのスピーカーで3点式の構成をとったセパレート・ステレオ、各構成要素を自由に組み合わせて構成するコンポーネント・ステレオなどに分類される。

 電池による電源部をもち、小型・携帯型としたステレオ再生装置はアウトドア・ステレオともよばれ、回路部品の小型・高性能化と、場所に拘束されずにどこででも音楽を楽しみたいとする使用者のニーズの多様化によって、急速に普及した。

 なお、コンパクトディスク(CD)については、「デジタルオーディオディスク」の項で詳述するので参照されたい。

[吉川昭吉郎]

『日本オーディオ協会編『アマチュアオーディオハンドブック』(1956・オーム社)』『オーディオ50年史編集委員会編『オーディオ50年史』(1986・日本オーディオ協会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ステレオ再生装置」の意味・わかりやすい解説

ステレオ再生装置【ステレオさいせいそうち】

ステレオレコード,ステレオテープ,ステレオ放送などを再生し,ステレオ音響を再現する装置。左右2チャンネルが基本で,スピーカーは2組必要。左右のチャンネル間に,機械的・電気的なクロストーク(漏話)があってはならない。左右のスピーカーの間隔は,場所の広さにもよるが,1.5m以上とり,離れすぎるときは両者の中間に左右のチャンネルを合わせた音を出すスピーカーを置く。→ステレオ録音
→関連項目オーディオ機器ステレオ音響4チャンネルステレオ

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