セナンクール(その他表記)Étienne Pivert de Senancour

デジタル大辞泉 「セナンクール」の意味・読み・例文・類語

セナンクール(Étienne Pivert de Senancour)

[1770~1846]フランス小説家ロマン派先駆者一人。作「オーベルマン」など。

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精選版 日本国語大辞典 「セナンクール」の意味・読み・例文・類語

セナンクール

  1. ( Etienne Pivert de Senancour エチエンヌ=ピベール=ド━ ) フランスの小説家。ルソーの影響の下に、主著である書簡体の告白小説「オーベルマン」で、大革命後の社会的動乱からはじき出された孤独な心理を描いた。(一七七〇‐一八四六

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改訂新版 世界大百科事典 「セナンクール」の意味・わかりやすい解説

セナンクール
Étienne Pivert de Senancour
生没年:1770-1846

フランスの思想家,小説家。パリの裕福な家庭に生まれるが,フランス革命で破産した父から僧職に就くことを強いられ,スイスに逃れて結婚。だが結婚生活は失敗に終わり,生涯孤独に暮らす。代表作《オーベルマン》(1804)は,薄幸青年が友人に書き送った書簡体の小説で,作者自身の内的体験を語った自伝的作品である。主人公アルプスやパリ近郊の自然のなかに暮らし,文学的・哲学的考察を通じて自己を分析し,人間の快楽のむなしさを感じて思い悩む。当時の青年の不安を表白している点ではシャトーブリアンの《ルネ》に近く,世紀病を代表する作品であるが,ルソーはじめ18世紀の思想家の影響を受けた作者は,キリスト教に反対する汎神論的立場からシャトーブリアンの《キリスト教精髄》を批判している。ほかに《人類の根源的性質に関する夢想》(1799),《恋愛論》(1805)等がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セナンクール」の意味・わかりやすい解説

セナンクール
せなんくーる
Étienne Pivert de Sénancour
(1770―1846)

フランスの小説家。王政時代の官吏を父としてパリの富裕な家庭に生まれる。父の希望する聖職者の道を嫌って、1789年スイスへ逃れる。以後、青年期の大半をスイスの美しい自然のなかで孤独な放浪者として過ごす。少年時代に早くもルソーの強い影響を受けたが、生来の夢想家の傾向と自然への愛は、スイス生活によっていっそう強められた。同時に、彼の作品の根底には、彼が育った18世紀の百科全書派(アンシクロペデイスト)の思想風土を見逃すことはできない。主要な作品に『人類の根源的性格に関する夢想』(1798)および『オーベルマン』(1804)がある。前者は、近代の極端に細分化された社会生活を捨て、人類初期の単純な牧歌的な生活への回帰を望む考えを述べて、彼がまさにルソーの直系の弟子であることを立証している。後者は自伝的小説であり、美しい自然のなかで語られる孤独と不安の魂の告白は、いわゆる「世紀病」の描写とともに、1830年代のロマン派の世代の先駆となった。ほかに特異な『恋愛論』(1805)がある。晩年の貧困と孤独なパリ生活ののち、パリ近郊サン・クルーに没す。

[山下佳代子]

『竹村猛訳『恋愛論』(1949・酣燈社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セナンクール」の意味・わかりやすい解説

セナンクール
Sénancour, Étienne Pivert de

[生]1770.11.16. パリ
[没]1846.1.10. サンクルー
フランスの小説家,思想家。 J.-J.ルソーの影響を深く受けた思想家であると同時に,19世紀初めのロマン主義者らしい豊かな感受性をそなえた文学者で,一生を清貧と孤独と夢想のうちにおくった。 19歳のときスイスに移り住み,その地で結婚,革命後パリに帰った。代表作『オーベルマン』 Obermann (1804) は,自伝的な性格の強い書簡体小説で,不安,倦怠,虚無感,絶望の暗い気分が全編に流れ,「世紀病」の記録といってよい。発表当時はほとんど評価されなかったが,ロマン主義の時代になってサント=ブーブや G.サンドらに認められ,多くの読者を得た。

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百科事典マイペディア 「セナンクール」の意味・わかりやすい解説

セナンクール

フランスの文学者。ロマン派前期に属し,唯一の小説《オーベルマン》(1804年)は,愛する自然の中での生活の自由と孤独を書簡体でつづったもので,フランス革命後の現実社会に幻滅した作者のルソー風の素朴な人間愛がにじみ出ている。

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世界大百科事典(旧版)内のセナンクールの言及

【ロマン主義】より

…とりわけルソーの書簡体小説《新エロイーズ》や自伝的な作品《告白録》がその代表とされる。恋愛を中心とする自己の感情の起伏や精神的苦悩を主人公に仮託して描く自伝文学は,ロマン主義文学の中でも主要な位置を占め,ゲーテの《若きウェルターの悩み》,シャトーブリアンの《ルネ》(1802),セナンクールの《オーベルマン》(1804),コンスタンの《アドルフ》へと継承され,ミュッセの《世紀児の告白》(1836)へと受け継がれる。この系譜の中からは,激変する社会の現実と自己の存在との乖離(かいり)を感じ,愛に満たされず何かを求め続け現実から逃避していく〈世紀病mal du siècle〉を病んだロマン派的魂の典型が浮かび上がる。…

※「セナンクール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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