日本大百科全書(ニッポニカ) 「セント・ジェルジー」の意味・わかりやすい解説
セント・ジェルジー
せんとじぇるじー
Albert Szent-Györgyi
(1893―1986)
アメリカの生化学者。特定の酸が細胞呼吸の触媒として働くことを発見した功績により、1937年ノーベル医学生理学賞受賞。ハンガリーのブダペストに生まれる。ギムナジウムを経てブダペスト大学医学部に進学。組織学に興味をもち、肛門(こうもん)上皮の研究をして最初の論文として発表した(1912)。第一次世界大戦に出征、負傷した。1917年医学部を卒業、生理学、薬理学、細菌学の研究に従事した。その後プラハで電気生理学、ベルリンで物理化学を学んだ。ハンブルク熱帯衛生学研究所、ライデン大学薬学部を経て、グローニンゲン大学生化学講師に就任。レモンの絞り汁中に強い還元物質を発見した(1927)。ケンブリッジ大学に留学ののち、母国セゲド大学医化学教授になる(1930)。ここで、パプリカから還元物質を単離し、ビタミンCであることを実証した(1932)。1937年に抗出血因子ビタミンPを発見した。ハトの胸筋切片を用いて、コハク酸などC4ジカルボン酸が細胞呼吸の触媒作用をすることをみいだし、クエン酸回路発見の基礎を築いた(1937)。
彼の不朽の業績は、筋収縮の分子過程がアクチン、ミオシンとATP(アデノシン三リン酸)との相互反応であるとの発見である(1942~1943)。1947年アメリカに亡命、ウッズ・ホール海洋生物学研究所に筋研究室を開設した。グリセリン処理筋やH-メロミオシンなどを創出した(1947、1953)。1953年以後、電子生物学に転向、癌(がん)の研究を始め、1976年には同研究所内に癌研究所を設けた。主著に『Chemistry of Muscle Contraction』(1951)、邦訳に『分子下生物学入門』(平野康一訳、広川書店)がある。
[丸山工作]
『丸山工作著『生命現象を探る――生化学の創始者たち』(1972・中央公論社)』