ゼニゴケ(その他表記)Marchantia polymorpha L.

改訂新版 世界大百科事典 「ゼニゴケ」の意味・わかりやすい解説

ゼニゴケ
Marchantia polymorpha L.

ゼニゴケ科の苔類で,コケ植物の中で多方面にわたって最も詳しく研究され,世界各国の植物学の教科書などで苔類の代表種として扱われている。世界に広く分布し,日本でも各地のやや陰湿な土上に生育するが,とくに庭,畑,溝など人為的な環境に多い。植物体は葉状で叉(さ)状に分岐し,長さ3~10cm,幅8~15mm,やや黒みをおびた緑色,辺縁は細かく波状に縮む。葉状体内部構造は複雑で同化組織には気室という間隙かんげき)があり,気室は気室孔という穴を通じて外界と連絡し,気室の中には緑色の細胞が不規則に配列している。背面の中央部に杯状の無性芽器(杯状体という)を生じ,その中に多数の扁平な鼓形の無性芽ができる。雌雄異株で,雌株には雌器托,雄株には雄器托という生殖器をつける枝を生じるが,この枝は葉状体の一部が変形して直立したものである。雌器托は長さ3~5cmの柄とその先端の頭部からなり,頭部は8~10本の指状の突起を放射状に出し,突起の間に数個ずつの造卵器をもつ。雄器托は長さ1~2cmの柄と波状縁をもつ円盤状の頭部からなり,頭部に多数の造精器を内蔵する。胞子体は雌器托の頭部の下側に生じ包膜に包まれる。蒴(さく)は卵形で,蒴壁は1層の細胞からなり不規則に裂開する。蒴の内部には多数の胞子とともに弾糸がある。ゼニゴケ類(目)は世界に14科約400種,日本に9科約35種ある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼニゴケ」の意味・わかりやすい解説

ゼニゴケ
ぜにごけ / 銭苔
地銭苔
[学] Marchantia polymorpha L.

コケ植物ゼニゴケ科の1種。植物体は平らな葉状体で、幅1センチメートル内外、長さ5センチメートル内外になり、湿った土の上に横にはって群生する。濃緑色で二叉(にさ)状に1~2回分かれる。葉状体表面には多数の六角形の区画があり、この中央に灰白色の点状になった気室孔がある。葉状体腹面には多数の灰白色の仮根があり、仮根の細胞には大小の突起が内側に向けて出ている。雌雄異株。雄器托(たく)は高さ2センチメートル内外の柄(え)をもち、円盤状。雌器托は高さ5センチメートル内外の柄をもち、掌状に分かれる。胞子体は雌器托の下面につくられ、熟すと黄褐色となる。葉状体表面に盃(はい)状の無性芽器(盃状体)がつくられることが多く、このなかに多数の濃緑色の無性芽ができる。無性芽は湿った地上に落ち、成長してゼニゴケの体をつくる。ほとんど全世界的に分布し、日本でも各地にごく普通にみられる。無性芽による繁殖力が強いため、園芸家の間では他の植物を枯らすとして嫌われている。

 なお、コケ植物のなかで葉状体となるものを一般的にゼニゴケという場合がある。このときにはゼニゴケ科以外にジャゴケ科、ミカヅキゼニゴケ科、ミズゼニゴケ科その他が含まれるが、葉状体の形態、繁殖法などは、それぞれで著しく異なる。

[井上 浩]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゼニゴケ」の意味・わかりやすい解説

ゼニゴケ(銭苔)
ゼニゴケ
Marchantia polymorpha

タイ類ゼニゴケ科の1種。陰湿な地,家屋の北側の空地のような場所に生える。葉状体は二叉状に分岐し,腹面に仮根があり,表面には網目とその中央に1個ずつの小穴とがみられる。この小穴は気孔口で4個の孔辺細胞から成っている。この網目と孔口の形が,穴あき銭を並べたようなので,ゼニゴケの名がある。雌雄異株。雌株に雌器托,雄株に雄器托を生じる。雌器托は 10本前後の指状の突起ができ,その股の下部にある2枚の包膜の間に数個の造卵器ができる。雄器托は有柄の円板状で,その上面に放射状に多数の小穴ができ,そのおのおのに1個ずつの造精器ができる。造精器が成熟する頃,雨などの水分によって精虫が表面に流れ出し,雌器托の浸出物質に導かれて,造卵器内で受精する。やがて 蒴ができ,蒴柄が伸びて包膜の外に出,胞子が外に出る。胞子とともに生じた螺旋状弾糸が,乾湿の変化に応じてこれを助けるようになっている。なお,これらの生殖法のほかに,葉状体にはしばしば杯状体の器官を生じ,その中に無性芽ができ,それによっても繁殖する。

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百科事典マイペディア 「ゼニゴケ」の意味・わかりやすい解説

ゼニゴケ

ゼニゴケ科のコケ植物苔(たい)類。北半球に広く分布し,人家近くのやや陰湿な土壌などに群生する。体は扁平な葉状体で,濃緑〜淡緑色,表面にはやや不明瞭な六角形の区画をもつ。生殖器には柄があり,3〜4月,掌状に深裂した雌器托あるいは円盤状の雄器托をつける。雌雄異株。また,葉状体上に柄のない杯状の無性芽も多数つける。
→関連項目コケ(苔)植物

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