翻訳|soul music
1960年代以降のリズム・アンド・ブルース(R&B)の呼称。1950年代半ばから黒人ジャズ演奏家の間に、ジャズの基盤であるブルースの精神と、黒人教会音楽のゴスペル(福音歌)からの影響を強調して演奏し、それをソウル(魂)とよぶ傾向がみられた。R&Bはこの傾向を受けるとともに、ゴスペル色の強いレイ・チャールズや、人気の高い多くのゴスペル四重唱団からも影響を受けてゴスペルの感覚を取り入れ、50年代末にソウル・ミュージック(ソウル)へ移った。60年代に入って公民権運動やブラック・パワーの高まりと関連してソウルは盛んになり、数多いスターが活躍した。ジェームズ・ブラウンはソウルのゴッドファーザー、アレサ・フランクリンはレディ・ソウル(女王)とよばれた。ソウル専門のレコード会社も相次いで出現したが、その後ソウルは多様化し、80年代にはブラック、ブラック・コンテンポラリーともよばれた。
[青木 啓]
『Michael Haralambos『FROM BLUES TO SOUL IN BLACK AMERICA』(1975・Drake Publishers, Inc. U.S.A)』▽『リー・ヒルデブランド著、松田洋子訳『ソウル、リズム&ブルースのスター』(1994・東亜音楽社)』▽『林剛編『Lady soul――ブラック・ビューティ・ミュージック・ガイド』(2003・学陽書房)』
1960年代を頂点とする,アメリカ黒人の現代的な大衆音楽。第2次世界大戦直後に興ったリズム・アンド・ブルースが,ゴスペル・ソング,ジャズ,白人のポピュラー音楽などの影響をうけ,ワシントン大行進(1963)に象徴される公民権運動の高まりにも刺激されて,黒人の感性を洗練されたサウンドで表現する音楽形態として発展した。これをそれ以前のリズム・アンド・ブルースと区別して,ソウル・ミュージックと呼ぶ。黒人の民族意識が高まった1960年代には,黒人同士が〈ソウル・ブラザー〉と呼びあったり,黒人独特の料理を〈ソウル・フッド〉と呼んだりするのが流行していた。〈ソウル〉はスラングとして,アメリカ黒人間の共通意識,特有の資質などを感覚的に表し,ソウル・ミュージックも〈魂の音楽〉という意味に解するよりも,アメリカ黒人の自己確認のための音楽といった含みでとらえるべきであろう。
強烈なビートとステージ・アクションで聴衆を引きつけていたリズム・アンド・ブルースがソウル・ミュージックへ転換する先駆をなしたのは,歌手でピアニストのレイ・チャールズと歌手のサム・クックSam Cooke(1935-64)である。ともに50年代後半に,ゴスペルの要素をリズム・アンド・ブルースに持ち込んだ曲をヒットさせた。クックに強く影響されたオーティス・レディングOtis Redding(1941-67)は,ジョージア州で牧師の息子として生まれ,テネシー州メンフィスで録音したレコードが63年から67年の飛行機事故による死亡の後まで次々にヒットした最大のソウル歌手であるが,ふりしぼるように力のこもった歌い方で粘ったリズムに乗る彼のボーカルは,恋の歌の場合でも教会音楽と共通した安らぎを聞く者に感じさせる。レディングに代表される南部のソウル・シンガーのこのような深みのあるスタイルを,ファンは〈ディープ・ソウルdeep soul〉と呼んでおり,それに対して北部では,デトロイトに本拠のあったレコード会社モータウンのアーティストたちに代表される洗練度の高い都会的なサウンドを特徴とし,ゴスペルの要素は薄い。
1970年代に入って北部の洗練されたサウンドが主流を握り,ダンス音楽の比重が高まって,いわゆるディスコ・サウンドとして白人の音楽と一体化してゆき,80年代にはソウルという語はあまり強調されなくなった。
執筆者:中村 とうよう
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… 奴隷解放後は,南部各地さらに北部・東部都市の黒人居住区に数多く生まれた黒人教会を拠点として独自の宗教音楽が発展を続け,ことに1920年代から50年代にかけて,シャウト唱法や強いビートをさらに強調したゴスペル・ソングgospel songが大きな盛上がりを見せ,女性ソロ歌手のマヘリア・ジャクソンが非黒人間にも高い評価を得たほか,数多くのコーラス・グループが黒人教会を巡回したりレコードを出すなど活発に活動した。60年代にはモダン・ジャズ界でゴスペル・ソングの曲調を取り入れることが流行し,リズム・アンド・ブルースにゴスペルの影響が深く入り込んでソウル・ミュージックを生み出すなど,黒人民衆音楽の重要な柱のひとつとして今日まで生き続けている。【中村 とうよう】。…
※「ソウルミュージック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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