改訂新版 世界大百科事典 「タルドノア文化」の意味・わかりやすい解説
タルドノア文化 (タルドノアぶんか)
北フランス,タルドノアTardenois地方のコアンシーCoincy,ブリュイェールBruyères両遺跡の遺物をもとに定義された,細石器を主とする後氷期の石器文化。一般には中石器時代とされる。特徴的な遺物は,石刃の両縁にくぼみ部を作り,それを折り点とする特殊な技術(タルドノア技法)を用いて作られた台形石器である。北フランスを中心に分布し,前8000年ころに始まり,前3000年を下る時期まで継続した。南西フランスでは,長方形石器と三角形尖頭器(タルドノア型尖頭器)が欠落するが,類似した石器文化が知られ,ソブテール文化と呼ばれる。プロバンス地方では,従来タルドノア文化の系列と考えられた石器文化は,年代的に古くなることから起源の異なるものとされ,シャトーヌフ文化(カステルノビアン文化)と呼ばれる。ブルターニュ地方では,シャトーヌフ文化に似たものがタルドノア文化の系列の中に考えられているが,ポルトガルのムジェ文化の石器に似るものがある。新石器農耕民が肥沃な地に住みついたのに対し,タルドノア文化の人々は従来の伝統,とくに石器を保持し,狩猟採集の生業を営み,開地で水源に近く,しかも乾燥した砂質土上に居住地を求めた。一部はこうして,青銅器時代まで長い期間同じ生活様式を保持したが,他方一部には,徐々に周辺の新石器時代文化からの影響を受けていったものもある(タルドノア文化系新石器時代文化)。
執筆者:山中 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報