翻訳|microlith
小型の,あるいは細かい石器を意味し,石器の形状の特徴から生まれた名称。フランスのフェラン・タルドノア遺跡(1879)やマス・ダジール洞窟(1887)の調査でこの種の石器の存在が知られた。日本で細石器と訳され,学史に現れるのは昭和の初めころからである。世界史的にみて細石器が製作・使用された時代はおよそ1万年前ころである。地域により年代,文化編年に多少の違いはあるが,旧石器時代の末期から新石器時代の初めにかけて(その中間に中石器時代を置くことがある)の時代を示標する石器の一つである。旧石器時代の石器づくりを概観すると,石器類の主体は独立した大型のものから小型のものへと移っていくが,この流れの背後には後期旧石器時代に最高潮に達した石刃技法の完成がある。細石器づくりはこの技術の発展したものであり,二つの大きな流れをもつ。一つはヨーロッパ,アフリカ,西アジア,インドにまたがる地域に分布する石刃技法そのものの小型化あるいは縮小化とみられる小型石刃(幅約1~1.5cm,長さ数cm以下)を利用して作る石器類である。この小石刃の側辺に抉りを入れて斜めに折り取ってできる小型彫刻刀micro-burinsや小石刃の鋭い縁を一部に残して半月形,台形,三角形状に加工する幾何学形細石器geometric microlithと呼ばれるものである。他はモンゴル高原,シベリア,日本,アラスカにまたがる地域に分布圏をもつもので,石刃石器の一つであった彫刻刀graverあるいは舟底形石器keeled-scraper類から生ずる不用な石屑部分を逆に有効に活用したといえる細身(幅約0.5cm)の石刃類である。特色ある石核を準備する特徴があり,これらを細石核,細石刃と呼ぶ。細かい石器類は単体で鏃や銛などの狩猟具として用いるが,組み合わせていっそう合理的な道具(コンポジット・トゥールcomposite toolと呼ぶ)として用いることができる。木や骨の柄に溝を掘り,鋭い側縁を並べて樹脂などで固めた銛や,農耕文化の発祥の地西アジアでは穀草の刈取りに鎌として用いた。鎌の鋭い縁は刈り取るとき稲科植物に含まれる珪酸分によって被膜され,切れ味が悪くなったり,ときには刃こぼれも生じたであろう。この点,簡便に取替えのできる互換性のよさは細石器のすぐれた面であるといえよう。日本の細石器は分布圏としてはモンゴル型細石器に属し,全国的に発見される。北海道を中心にした細石刃づくりには湧別技法が知られ,九州にはそれに近い西海技法があり,中間帯には舟底形石核や日本の細石器文化研究の足がかりとなった矢出川遺跡の細石核などがある。ただ九州地方では複雑な様相を示し,上場(うわば)遺跡ではナイフ形石器,台形石器,細石刃が共伴することが知られた。ナイフ形石器は先行する時代から引き継いだものであり,台形石器は形の上では幾何学形細石器に似たものである。さらに細石器類が縄文時代草創期の土器の一群に伴って発見されることも福井洞穴の調査から知られるようになった。
→石器 →中石器時代
執筆者:松沢 亜生
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ミクロリスmicrolithともよばれる小さな石器。幅1センチメートル、長さ5センチメートル以下ぐらいのきわめて小さな石器であり、単独で使用するものではなく、木や骨の柄(え)にはめ込んで使われた。小さいためきわめて軽く、また一定の石材からもっとも長い刃を得ることができる。先史時代にあっては良質の石材は限られており、そのためもっとも能率のよい方向へと石器製作の技術は発展していった。その方向の頂点にあるのが細石器である。後期旧石器時代末期から中石器時代にかけてもっとも盛行し、新旧両大陸ともにみられる。このように世界的にみられるので、その形態、あり方はさまざまである。世界的にみた場合には、小さな石刃(せきじん)の形をあまり変えずに使っている例が多いが、ヨーロッパ、西アジア、北アフリカといった環地中海地域には、長方形、台形、三角形、半円形といった幾何学形をしたものもある。これらは幾何学形細石器とよばれる。
[藤本 強]
ヨーロッパ中石器時代のマイクロリスmicrolithの訳語。長さがほぼ3cm以下の極小の石器。木や骨製の柄の側縁に刻んだ溝に複数の細石器を装着して刃部とした組合せ道具を作るのが特徴。狩猟用の尖頭(せんとう)具や切截・削剥用の加工具として用いる。約1万年前の晩氷期から後氷期にかけて世界のほとんどの地域に分布した普遍性の高い石器。ヨーロッパ・北アフリカ・西アジアから南アジアには小型の石刃や剥片(はくへん)に細部調整を加えた幾何学形細石器が分布し,シベリアから環太平洋地域北部には石刃を著しく小型にした細石刃細石器が分布し,細石器文化の2大潮流とされる。
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三日月形,梯形,長方形,三角形を呈する幾何学的形態で,わずか2~3cmの小剥片(はくへん)の石器。これらは独立した石器ではなく,棒の先端につけて槍としたり,あるいは数個を木,骨,角の側縁の溝にはめこんで,銛(もり),鋸(のこぎり),ナイフ,鎌などとしたもの。フリント製細石器の初現は後期旧石器時代にあり,北アフリカ,西ヨーロッパに現れ,中国においては中期旧石器時代のオルドス文化に小型品の存在が認められる。日本の縄文時代ごく初期まで用いられた。
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…しかし,ヨーロッパの中でも,中石器時代という用語があまり使用されず,農耕文化出現以前の最終末旧石器時代ということで続旧石器時代Epipalaeolithicの語が使われる地域もある。 ヨーロッパにおける中石器時代は,きわめて小型の石器,すなわち細石器によって特徴づけられる。この細石器自体は,後期旧石器時代にすでに存在しているが,中石器時代にはとくに優勢となる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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