改訂新版 世界大百科事典 「アジール文化」の意味・わかりやすい解説
アジール文化 (アジールぶんか)
フランス,ピレネー地方のマス・ダジルMasd'Azil遺跡を標準遺跡とする晩期旧石器時代文化。9000~1万0500年前の年代が与えられる。フランスからスペインにかけて分布するが,地域差が大きい。この地域差の兆しはすでに後期旧石器時代の終りに認められていたものである。特徴的な石器は短い搔器(親指状搔器)と半月形を呈する背付石器(アジール型小型ナイフ形石器)である。石器製作技術の伝統は後期旧石器時代のものが継続する。この文化は氷河時代の終わる,気候が温暖化する時期に始まるが,獲物の動物がトナカイから鹿に変わることにそれは反映されている。鹿の角を用いて平たい有孔銛が作られているが,一般的に骨角器は乏しく,作りは粗くなっている。美術品にも著しいものが認められなくなっているが,赤色オークで様式化された文様を薄い礫に描いた彩礫は,研究史の初期の頃から有名である。
執筆者:山中 一郎
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