旧約聖書の黙示文学に属する書物。ヘブライ語とアラム語の部分からなる。1~6章はネブカドネザルの宮廷で教育を受けたダニエルとその3人の友人,シャデラク,メシャク,アベデネゴという知恵に富み律法に忠実な若者の物語。ダニエルによる王の夢の解き明かし(2~4),ベルシャザル王の宴会の際壁に現れた文字の解き明かし(5),偶像礼拝を拒否し,炉に投げ入れられた3人の友人(3)と,王礼拝を拒否して獅子の穴に投げ入れられたダニエルの試練と奇跡的救出(6)が記される。後半はダニエルの見た四つの幻とその解釈。バビロニア,メディア,ペルシア,ギリシアを示す海からの四つの獣(7),雄羊と雄山羊の戦い(8),70年の預言の意味と,終りの時の幻である。後者はペルシアからギリシアまでの歴史と天使ミカエルの戦い,信仰者の勝利と復活を述べる(10~12)。以上のような内容によって本書は,ヤハウェの主権へのアンティオコス4世の挑戦と,〈神の国〉の勝利,〈人の子〉への主権の賦与(7)を示す。
執筆者:西村 俊昭
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『旧約聖書』を代表する黙示文学の傑作。『近代語訳旧約聖書』では、「預言書」(ネビイーム)として、その一書に数えられているが、ユダヤ教では預言の書から外され、第三部の「諸書」(ケスビーム)に位置づけられている。これは、黙示文学を排斥するユダヤの律法学者たちの思想の表れである。制作年代については、紀元前6世紀ごろ、本書の主人公ダニエルがバビロン捕囚中に執筆したとみる説もあるが、一般には前2世紀ごろ、シリア王アンティオコス4世(在位前175~前163)の迫害に苦しむユダヤ人同胞を励ます目的をもって書かれた文書であり、主人公ダニエルは創作上の人物であるとみなされている。ユダヤ黙示文学、とりわけ『新約聖書』の「ヨハネ黙示録」などに与えた影響は大きい。
[山形孝夫]
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…帰還後に神殿を再建したものの(前515),アレクサンドロス大王の東征以後の混乱の中で教団は危機にさらされ,そのとき黙示思想(黙示文学)としての終末論が発生した。《ダニエル書》がその代表である。黙示思想には未来の描写はあっても構想はなく,歴史の現実を与えられた黙示に従って少しずつ切り開いていくといった性質のものである。…
…それゆえ,黙示文学の範囲については,学者の意見は分かれる。だれもが黙示文学と認める最初の独立文書は,旧約聖書中の《ダニエル書》(前2世紀中ごろ)である。しかし,すでにそれ以前に比較的短い同種類の文書が書かれ,旧約の《イザヤ書》《ゼカリヤ書》などの一部になっている。…
※「ダニエル書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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