日本大百科全書(ニッポニカ) 「聖書外典」の意味・わかりやすい解説
聖書外典
せいしょがいてん
Apocrypha
外典というのは正典canonに対することばである。聖書の正典は、『旧約聖書』39巻、『新約聖書』27巻であるが、それ以外の聖書関係の文書を広く外典という。したがって『旧約外典』があり、また『新約外典』がある。アポクリファ'απκριφα/apocryphaというのは「隠されている」の意味であり、初めは一般に公開されないという意味で用いられていたが、ヒエロニムスが聖書をラテン語に訳したとき、古くからあるヘブライ語原文による旧約の部分を「正典」とし、紀元前3世紀にエジプトでギリシア語に訳された『七十人訳聖書』Septuagintaのなかに追加されてある部分を「外典」と名づけた。したがってこの「外典」以外の諸文書は、これと区別して「偽典」pseudepigraphaとよばれる。その結果、広く『聖書外典』という場合には、旧約では『旧約外典』と『旧約偽典』とがあることになり、新約では『新約聖書』以外の関連文書はすべて『新約外典』のなかに含められる。なお『新約正典』以外の諸文書を「外典」と名づけたのはアタナシウスAthanasius(328年アレクサンドリア主教)であった。
ローマ・カトリック教会は1546年の公会議によって『旧約外典』を正典のなかに加えているが、プロテスタント教会はこれを否定したままで、正典と認めていない。『旧約正典』の記事はイスラエル民族の始まりから、バビロン捕囚民の帰還、アレクサンドロス征服後のギリシア化の風潮のなかでの宗教的苦闘の時代にまで及んでいる(前2世紀)。『旧約外典』とよばれる15の文書は、だいたい『旧約正典』の終わる前後からハスモン王朝(前142~前63)下のユダヤ人社会を背景とする。とくにギリシア化に反対して立ち上がったマカベア家の運動を記した「マカベア書」、ギリシア文化を取り入れつつもユダヤの伝統的信仰を守ろうとしている「ソロモンの知恵」や「ベン・シラの知恵」、また黙示文学の「エズラ書」などが注目される。また『旧約偽典』はハスモン王朝期から『新約聖書』時代に至る約300年にわたる期間の信仰文書を含み、「ソロモンの詩篇(しへん)」「十二族長の遺言」、黙示文学の「エノク書」などがあり、また有名な「死海文書」もこのなかに含められる。『新約外典』は新約の正典以外の諸文書であり、多くのイエスのことばの断片、福音(ふくいん)書関係のもの、使徒たちの行伝や書簡類、いろいろの黙示録などがある。
[木下順治]
『『聖書外典偽典』全8巻(1975・教文館)』▽『R. H. CharlesThe Apocrypha and Pseudepigrapha of the Old Testament in English, 2 vols.(1913, Oxford U. P., London)』▽『M. R. JamesThe Apocryphal New Testament(1924, Oxford U. P., London)』▽『E. Henneck & W. Sc W. SchneemelcherNew Testament Apocrypha, 2 vols.(1963, E. T., SCM, Great Britain)』