メルカプト基-SHが炭化水素基と結合した有機化合物R-SHの総称で,メルカプタンmercaptanと呼ばれることもある。アルコールの水酸基の酸素原子に代わって硫黄原子が入った形であり,チオアルコールthioalcoholともいう。一般に無色の液体で,悪臭を有する。たとえば,スカンクの臭気成分には1-ブタンチオールCH3CH2CH2CH2-SHが含まれる。食品や香辛料のにおいもチオール類が原因となることが多い。対応するアルコールやフェノールに比べて分子間の水素結合が弱いため,沸点は低い(たとえばメタンチオールCH3SHでは6℃であるが,メチルアルコールCH3OHでは76℃)。また,アルコールと異なりほとんど水に溶けない。脂肪族チオールのおもな合成法としては,ハロゲン化アルキルと水硫化カリウムKSHとの置換反応,アルケンに対する硫化水素の付加反応などが用いられる。芳香族チオールは芳香族スルホン酸塩化物を亜鉛と硫酸で還元することにより得られる。チオールは酸化されやすく,空気中の酸素でさえも徐々に酸化を行いジスルフィドRS-SRを生成する。過マンガン酸カリウムなど強い酸化剤で完全に酸化するとスルホン酸となる。-SH基の水素はごく弱い酸性を示し,アルカリ水溶液からチオラート(RSNaなどチオールの金属塩)をつくる。水銀その他の重金属の塩とも容易に反応し,結晶性の金属誘導体を与える。
執筆者:小林 啓二
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チオアルコールともいう.ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子に置換した,RSH化合物の総称.低分子量の化合物は広く天然に存在し,漬けものの香気,スカンクの臭気など強い特有の臭いをもつ.硫黄原子の影響で,相当するアルコールに比べて極性が低く,弱酸性であり,有機溶媒には溶けるが,水に溶けにくく,沸点も低い.脂肪族チオールがハロゲン化アルキルと硫化水素ナトリウムとから得られるのに対し,芳香族チオールはアリールグリニャール試薬と単体硫黄との反応で得られる.脂肪族チオールに比べ芳香族は酸性が強く,アルコールに近い性質をもつ.重金属塩と安定なメルカプチドを形成する.酸化されやすく空気中でもジスルフィドを与えるが,この性質は生体内でも重要な役割を果たしている.赤外吸収スペクトルでは2500 cm-1 付近にS-Hの吸収を示す.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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