チンパンジー(英語表記)Pan troglodytes; chimpanzee

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

霊長目オランウータン科。頭胴長 80~90cm, 70~80cm。立上がると身長 1.5mをこえる。体重は野生の状態で 30~50kg,動物園では 60~80kgになることもある。ゴリラ,オランウータンと並ぶ大型のサルであるが,この3種のなかでは最も小さい。耳が大きく,額はひさし状に突き出している。手は長く,立ったとき膝まで達する。歩くときは手を握り,指の第2関節を地面につける「ナックルウォーク」を行う。数頭から 20頭ぐらいの小群で行動し,リーダー格がこれを率いているといわれる。緊張をやわらげるための挨拶行動を頻繁に行う。昼間活動性で,樹上小枝を用いてをつくり,夜はそこで寝る。雑食性で,植物質はもとより昆虫,小型哺乳類などを捕えて肉食もする。知能程度が高く,道具を使うことも知られていて,訓練するといろいろな芸を覚える。月経周期は約 32日,妊娠期間は約 228日。普通1産1子である。アフリカ中央部から西アフリカに分布する。同属別種ボノボ (ピグミーチンパンジー) P. paniscusがいる。

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百科事典マイペディアの解説

クロショウジョウとも。霊長目ショウジョウ科の類人猿。頭胴長雌70〜85cm,雄77〜92cm。雌のほうが小さい。尾はない。体毛は黒〜黒褐色で,皮膚は淡褐色。熱帯アフリカのザイール川以北,セネガルタンザニアに分布。普通,森林にすむが,一部はサバンナにも進出する。果実,木の芽などをおもに食べ,また昆虫,アンテロープなど肉食も行う。一般に15〜120頭で群生するが,群は流動性が大きい。夜は樹上に枝と木の葉で巣を作って眠る。1腹1子。脳容積300〜400cm3前後で,知能が高い。近縁種にコンゴ民主共和国のザイール川とカサイ川にはさまれた地域にすむ小型なボノボ(ピグミーチンパンジー)がいる。
→関連項目サル(猿)類人猿

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世界大百科事典 第2版の解説

霊長目ショウジョウ科チンパンジー属に属する類人猿(イラスト)。クロショウジョウとも呼ばれる。西アフリカのセネガル,ギニアシエラレオネから,ナイジェリアカメルーンコンゴ民主共和国の北半,ウガンダおよびタンザニアの西部にかけて分布している。おもに熱帯多雨林に生息しているが,ギニアとタンザニアでは,乾燥疎開林にも進出している。3亜種が認められており,西アフリカに分布するニシチンパンジーP.t.verus,中央アフリカに分布するチェゴチンパンジーP.t.troglodytes,コンゴ民主共和国から東アフリカにかけて分布するケナガチンパンジーP.t.schweinfurthiiに分けられる。

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大辞林 第三版の解説

ショウジョウ科の哺乳類。全身黒い毛に覆われ、ゴリラに似るが小形で、雄は背の高さ1.5メートルほど。サル類の中では最も知能の高いものの一種。熱帯アフリカの森林地帯にすみ、夜は木の上で眠り、昼間、果実、木の芽・葉、昆虫などを食べる。黒猩々くろしようじよう。広義には、別種のピグミーチンパンジーを含む。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

哺乳(ほにゅう)綱霊長目ショウジョウ科の動物。クロショウジョウ(黒猩々)ともいい、ボノボ、ゴリラとともに、アフリカの大形類人猿African great apesの一員である。[伊谷純一郎]

分布

アフリカ大陸の赤道を北西から南東にたすき掛けにするような分布を示す。北限は、セネガルの北緯15度、南限はコンゴ民主共和国(旧ザイール)、タンガニーカ湖畔の南緯7度30分、東限はタンザニア、ウガラ川左岸の東経31度30分である。分布域は、低地熱帯多雨林、山地林、乾燥疎開林を含み、ゴリラに比べてより乾燥した植生にも生息しているが、サバンナへは進出していない。セネガルからニジェール川右岸にまで分布するニシチンパンジーP. t. verus、ニジェール川左岸からコンゴ(ザイール)川右岸、サンガ川右岸の多雨林帯に分布するチェゴチンパンジーP. t. troglodytes、ウバンギ川以東、ウガンダ西部、タンザニア西部にまで分布するケナガチンパンジーP. t. schweinfurthiiの3亜種に分けられている。[伊谷純一郎]

形態

体重は、雄が40キログラム、なかには50キログラムに達するものがあるが、雌は平均35キログラムで、ゴリラほど性差は顕著でない。スイスの人類学者シュルツAdolf Schultzは、雄100に対する雌の体重比を92.1としている。身長は、雄が150センチメートル、雌は130センチメートルである。全身黒色の毛に覆われるが、3歳までの子には肛門(こうもん)の上に白い毛があり、これは成長とともに消失する。顔は裸出し、その皮膚は子は明色であるがしだいに暗色または黒色になる。個体によっては成長しても飴(あめ)色のものもある。ゴリラに比べて耳殻が大きい。眉(まゆ)の上の隆起はゴリラともども顕著である。ケナガチンパンジーは、雌雄ともに前額部がはげる個体が多い。歯数はヒトと同じ32本であるが、雄は強大な犬歯をもち、歯隙(しげき)が目だつ。下肢に対して前肢が長く、手の指の中節背面を地面につけて、いわゆるナックル・ウォークを行う。四足歩行時の体軸はオナガザルのように地面に水平ではなく、斜めになる。雄の頭蓋(とうがい)内容量は約400ccで、小形類人猿であるテナガザルの100ccに比べて格段の開きがある。性的成熟までには、雌は約8年、雄は約10年を要する。野生のものの寿命については十分な資料はないが、40年以上生きると考えてよいであろう。老齢個体のなかには、腰から背面にかけての毛が白くなるものもある。[伊谷純一郎]

生態

地上・樹上で活動するが、移動時は地上歩行によることが多く、夜間は樹上に木の枝を折り曲げてつくったベッドの上で眠る。食物は果実を主とするが、葉、茎、樹皮、花なども食べ、そのほかサル、レイヨウ、ノブタ、リスなどのあらゆる哺乳動物を捕食し、鳥の雛(ひな)や卵、アリ、シロアリなどの昆虫類も好んで食べる雑食性である。また、アリ、シロアリなどの捕食、樹洞に蓄えられた蜂蜜(はちみつ)の採食には、木の枝やつるなどの道具を用いる。西アフリカでは、アブラヤシの実を石でたたき割って食べたという観察もある。これらの道具使用行動には地域による技法の違いが認められ、各地域集団によって伝承される文化的行動であることが明らかにされている。食物の分配行動がみられることも行動の進化を考察するうえで重要な意義をもつ。[伊谷純一郎]

社会

平均40頭、20頭から80頭の複雄複雌の集団をつくって生活する。集団の遊動域は生息環境によって異なるが、常緑林では20~40平方キロメートル、疎開林では100~500平方キロメートル以上に達する。通常その約30%を隣接集団の遊動域と重複させているが、集団間には相いれない対立があり、また集団間の優劣が認められる。ニホンザルなどのような凝集性のある集団をつくることなく、絶えず離合集散を繰り返すが、集団内の雄の間には強い結合が認められる。性的成熟を迎えた雌は、自発的に、生まれ育った出自集団を去って隣接集団に加入し、そこで子を産み育てる。すなわち、チンパンジーの社会は、集団間で雌を交換する父系社会であるといってよい。初産年齢は10歳前後、1産1子で、出産間隔は約5年である。発情した雌の性皮は著しい腫脹(しゅちょう)をみせる。雌間に社会的交渉が乏しいのもこの社会の特色である。タンザニアのゴンベ、マハレで長期にわたる観察が続けられている。[伊谷純一郎]
『伊谷純一郎編著『チンパンジー記』(1977・講談社) ▽西田利貞著『野生チンパンジー観察記』(1981・中央公論社) ▽ジェーン・グドール著、河合雅雄訳『森の隣人』(1973・平凡社)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 (chimpanzee) ショウジョウ科の哺乳類。身長は雄で約一・五メートル、雌で約一・三メートル、体重は雄で五〇キログラム、雌で四〇キログラムに達する。体毛は黒く、前あしが長く、尾はない。一見ゴリラに似るが小形で、鼻は小さく耳が大きい。西アフリカからコンゴを経て、タンガニーカ湖畔までの森林に分布する。主に果実や木の芽を食べるが、昆虫や他の動物も食べる。夜は樹上に巣をつくってねる。サル類のうち最も知能が高く、人によく慣れる。行動の上で人の進化を示唆する貴重な存在として注目される。くろしょうじょう。
※動物進化論(1883)〈石川千代松訳〉九「一個の元祖より分れて一は『チンパンジー』となり、一は『ゴリラ』となり〈略〉一は人種となりたる論理なり」

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最新 心理学事典の解説

霊長類の一種。チンパンジー属。ヒト属,ゴリラ属,オランウータン属とともにヒト科の4属を構成し,現生の生物の中ではヒトから見て最も系統的に近い存在である。日本の種の保存法,動物愛護管理法といった法令の付表には動物名が書いてあり,「ヒト科チンパンジー」と明記されている。学名パン・トゥログロディテスPan troglodytes

 21世紀になって,全ゲノム解析が飛躍的に進んだ。ヒトゲノムが2003年に解読され,チンパンジーゲノムが2005年に解読された。その結果,両者のDNAの塩基配列は,約98.8%まで同じだということがわかった。逆にいうと,相違は約1.2%である。ゲノム解析の結果と化石の資料を照らし合わせると,両者の共通祖先は,約600万~500万年前にいたと考えられている。ヒト(ホモ・サピエンス)と同属の別種は死滅したが,チンパンジーには,現在も同属の別種が生きている。通称ボノボ,学名はパン・パニスカスである。かつてはピグミーチンパンジー(小型のチンパンジー)ともよばれていた。2種ともパン属(チンパンジー属)に分類されている。「チンパンジー」というとき,チンパンジーそのものを指すときと,チンパンジー属を指すときがある。ここでは「チンパンジー」はチンパンジーのみを指す。

 チンパンジーは,アフリカの東部,中央,そして西部まで,赤道直下の熱帯林とその周辺のサバンナに分布している。コンゴ盆地を流れるコンゴ川の北側にチンパンジーがいて,南側にボノボがいる。つまり両者は地理的な障壁で分けられており,自然には出会うことがない。おそらく地理的な障壁ができた後,それぞれが独自の進化をたどったと考えられる。

【チンパンジーの社会】 チンパンジーは男性優位で,さまざまな道具を使い,隣り合う群れ間の関係は敵対的である。それに対して,ボノボは女性優位で,道具をほとんど使わず,隣り合う群れ間の関係は平和共存的である。両者の姿形はよく似ているが,行動の面では著しく異なっている。

 チンパンジーは父系である。年頃になると,女性が群れを出ていく。男性は,生まれた群れに残る。祖父,父,兄,弟,そうした血のつながった男性が連携して,その群れの女性や子どもたちを,隣接する他群や人間から守っている。

 チンパンジーの妊娠期間は約240日である。人間より40日ほど短い。出生体重は,人間が約3㎏だが,チンパンジーは2㎏弱である。1回の出産で1子が基本である。双子の生まれる確率は人間よりも低い。基本的には母親だけが子育てをする。赤ん坊は生まれてすぐから母親にしがみつき,体毛を握りしめて手放さない。ひもじくなると自分で乳首を探して吸う。生後3ヵ月ほどの間,母子は片時も離れない。子どもは母親にしがみつき,母親は子の背中に片手を添えることもある。群れにいる男性は,その子の父親か,祖父か,伯叔父か,兄か,従兄だろう。いずれも血がつながっている。つまり血のつながったおとなの男性が連携して,女性と子どもたちを守る,そういう社会的な暮らしを営んでいる。

 チンパンジーの生存率や繁殖率について,野生チンパンジーの研究から,ようやく資料が出てくるようになった。出産は10歳代前半から始まり,40歳代後半でもまだ産む。つまり寿命のある限り産みつづけるので,基本的には「おばあさん」という社会的役割がない。もはや自分の子どもは産まないが孫の世話をする年寄りの女性,すなわち「おばあさん」というのは,人間が進化の過程で寿命を延ばして作り出した役割だといえる。出産間隔は約5年に1度である。チンパンジーのきょうだいは最低でも5歳くらい年齢が離れている。一人の子どもを母親が一人で大事に育て上げる。それがチンパンジー流の子育てだといえる。

 野生チンパンジーの場合,最大寿命が女性で約50年である。男性はそれよりも短い。乳幼児死亡率が高く,生後5歳未満で死ぬ率は約30%にも達する。平均寿命すなわち0歳児の平均余命は,約15歳程度である。

【チンパンジーの親子関係】 人間の子育てをチンパンジーとの対比で見ると,その特徴は三つにまとめられる。第1に,母親だけでなく父親も子育てに参加する。父母と子どもという核となる家族が存在する。核となる家族が複数集まってコミュニティとよばれる地域集団を作る。こうした一夫一婦の男女の結びつきを強めるために,人間の女性は外見からでは排卵時期がわからないようになっている。男女が協力して子育てするのが人間の特徴である。第2に,父母だけでなく,祖父母のように世代を超えて子どもの養育に参加する。第3に,姻族という社会関係も子育てに寄与する。つまり夫や妻の親族である。

 チンパンジーは母親だけが一人の子どもを産み育て,育て上げてから次の子どもに取りかかるが,人間では,母親だけでなく父親や祖父母や,きょうだいや,姻族や,さらには特別な血縁関係にはない地域のコミュニティの支援があって,複数のおとなが複数の手のかかる子どもたちを同時に育てる。「共に育てる」,共育というところに人間の子育ての特徴がある。

 チンパンジーには母子の絆を基盤に,教えない教育・見習う学習とよばれる,チンパンジー流の教育がある。第1に,親やおとなは手本を見せるだけである。第2に,子どもの側にはまねをしたいという強い動機づけがある。第3に,まねようと近づく子どもに対して,親やおとなはきわめて寛容な態度を示す。こうした教育は,人間の場合も伝統的な技術の伝承の場面などで見られる。チンパンジーにはなくて人間だけにあるのは,教える,手を添える,褒める,というような行動だといえる。

【チンパンジーの知性】 チンパンジーの親子の絆や教育が基盤になって,チンパンジーでも人間と同様に世代を超えた文化の伝承のあることがわかってきた。野生チンパンジーはそれぞれの地域で固有な文化的伝統をもつ。たとえばギニアのボッソウのチンパンジーは一組の石を台にして硬いアブラヤシの種を叩き割り中の核を取り出して食べる。タンザニアのゴンベのチンパンジーはアブラヤシも石もあるがそういう行動はしない。逆に,ゴンベのチンパンジーはシロアリの塚の穴に細い棒を突っ込んで,驚いて棒にかみついてきたシロアリを引きずり出して舐め取る。ボッソウにもシロアリの塚はあり,塚からはい出てきたシロアリをつまんで食べるが,塚の中に隠れていて目には見えないものを引きずり出してまで食べない。つまり生態環境では説明できない地域差があり,それは人間と同様の文化的差異だと考えられる。

 チンパンジーは多様な道具を使うが,道具を製作するための別の道具を作ることはない。またチンパンジーの言語習得研究から,ある程度までなら手話や文字を覚えて使いこなすことがわかっているが,それが1000語を超えたりはしない。入れ子構造になった階層的知性やシンボルを操作する知性は,人間に顕著だが,チンパンジーにはきわめて認めがたいといえる。

 一方で,チンパンジーは目の前にあるものを一瞬で見て取るのはきわめて得意なことがわかってきた。モニター画面上に現われたアラビア数字について,どの数字がどこに現われたかを一瞬で正確に記憶する。これは直観像記憶とよばれるが,チンパンジーの子どもに顕著な能力だとわかった。

 要約すると,チンパンジーは基本的には「今,ここの世界」に生きているといえるだろう。目の前に展開する事物を見て取る能力に優れているが,時間的にも空間的にも想像する範囲は狭い。それに対して,人間は,生まれる前の過去を参照し,死んだ後の未来にまで思いをはせる。目の前にはいない遠く離れて苦しんでいる人間に心を寄せることができる。想像する力,その豊かさにおいて人間はチンパンジーを凌駕していると考えられる。 →大型類人猿 →霊長類
〔松沢 哲郎〕

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世界大百科事典内のチンパンジーの言及

【コミュニケーション】より

… 音声ではなく,行動型としてみれば,このカテゴリーに入るものは少なくない。類人猿のチンパンジーでは,このカテゴリーに入るものとして〈あいさつ〉とか〈なだめ〉とかの微妙な伝達行動が多様にあらわれる。にもかかわらず,サルや類人猿が音声言語を使えないのは,発声器官とくに喉頭部の構造に帰するといわれる。…

【人類】より


【社会的文化的特徴とその進化】
 かつてヒトを定義するための多くの特性があげられたが,近年の霊長類を対象とした研究によってそれらの中のいくつかはヒトの定義に耐えうるものではないことが明らかにされるにいたった。ヒトは道具を使用し道具を作る動物であるといわれたが,野生チンパンジーについての多くの観察がそれを無効にしたというのもその一例であろう。雑食性もヒトだけの特性ではなかったし,近親婚の回避や,集団間での女性の交換といった項目も人類に固有の特性ではないことが明らかになった。…

※「チンパンジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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