ツアハウゼン(読み)つあはうぜん(英語表記)Harald zur Hausen

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツアハウゼン」の意味・わかりやすい解説

ツアハウゼン
つあはうぜん
Harald zur Hausen
(1936―2023)

ドイツの医学者。ボン大学医学部を卒業後、ハンブルク大学を経てデュッセルドルフ大学で博士号取得。1972年からエルランゲン・ニュルンベルク大学のウイルス学の教授となり、1977年にフライブルク大学に移る。1983年から2003年までハイデルブルクのドイツがん研究センターの理事長を務めた。2008年、バレシヌシモンタニエとともにノーベル医学生理学賞を受賞。

 早くからパピローマウイルスの研究に取り組み、1970年代から、子宮頸(けい)がんの発症には特定のタイプのヒトパピローマウイルスが関与していることを発表していた。その後、患者の体内から2種類のヒトパピローマウイルスのDNA発見され、さらに1984年にはこのウイルスの複製にも成功している。

 子宮頸がんは女性のかかるがんとしては世界で2番目に多いがんであり、20歳~30歳と若い年代でも発病している。ヒトパピローマウイルスは、女性の80%が子宮頸部表皮感染するとされており、多くの女性は自己免疫力で治癒しているが、10人に1人はウイルスが消失せずに持続感染する。持続感染すると子宮頸部の上皮に異常増殖(異形成)が起き、10年以上の長い年月をかけてがんになる。

 ツアハウゼンによる原因ウイルスの発見によってワクチン研究開発が進み、ワクチンによる子宮頸がんの予防が可能になった。

[馬場錬成]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツアハウゼン」の意味・わかりやすい解説

ツアハウゼン
zur Hausen, Harald

[生]1936.3.11. ゲルゼンキルヘン
[没]2023.5.28. ハイデルベルク
ドイツの生物学者。1960年にジュッセルドルフ大学で医学博士号を取得。1962~65年同大学微生物学研究所,1966~69年アメリカ合衆国のフィラデルフィア小児病院を経て,ドイツのいくつかの大学でウイルスの研究を続けた。1983年にドイツ癌研究センターの所長となり,2003年には同センター名誉教授となった。子宮頸癌は感染症ではないかと考えられていた 1970年代に,ヒトパピローマウイルス HPVが子宮頸癌の原因と考え研究を始めた。乳頭腫といういぼ状腫瘍をつくる HPVに見当をつけ,子宮頸癌の細胞中にあるデオキシリボ核酸 DNAと HPVのさまざまな型の DNAを比較し,子宮頸癌には HPV16型と HPV18型の二つのタイプの DNAがかかわっていることを発見,1983~84年に発表した。その後 HPVの分類法,発癌の仕組みの解明,感染を防ぐワクチンの開発などが進んだが,それらの研究において常に中心的な役割を果たした。2008年,HPVが子宮頸癌を起こすことを遺伝子的に解明した功績により,フランソアーズ・バレシヌシ,リュック・モンタニエとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

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