日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトパピローマウイルス」の意味・わかりやすい解説
ヒトパピローマウイルス
ひとぱぴろーまういるす
human papillomavirus
ヒトの子宮頸(けい)がんおよびその前駆病変、尖圭(せんけい)コンジローマ等の原因となる、パピローマウイルス科パピローマウイルス属のウイルス。粒子構造は正二十面体粒子で、直径50~55ナノメートル、エンベロープはもたず、環状2本鎖DNAをゲノムとする。HPVと略称される。
HPVはこれまでに100種以上の遺伝子型が発見されており、粘膜病変から分離された粘膜型HPVのうち、少なくとも13種(HPV16型、18型、31型など)は子宮頸がんの組織からDNAが検出され、「高リスク型HPV」とよばれる。子宮頸がんの粘膜からもっとも高頻度に検出されるのはHPV16型で、全体の50~60%を占める。一方、良性の尖圭コンジローマ等の原因となるもの(HPV6型、11型など)は「低リスク型HPV」とよばれている。
これら粘膜型のHPVは、性行為を介して生じる性器粘膜の微細な傷より侵入することから、性的接触(性交渉)の経験があればだれでも感染する可能性がある。HPVに感染しても多くの場合は身体の免疫機能により自然にウイルスが排除されるが、一方で感染が持続する場合もある。高リスク型HPVの感染が子宮頸部で持続した結果、一部で前がん病変(異形成)が生じ、さらにその一部でがん化(子宮頸がん)がおこると考えられている。ただし、感染が持続していても自覚症状は通常伴わない。また、HPVは生涯のうちに何度でも感染しうる。
[渡邊清高 2020年11月13日]
HPVワクチン
子宮頸がんの95%以上はHPV感染が原因とされていることから、HPVの感染を防ぐことが子宮頸がんの予防につながると期待されている。HPVの感染を予防することを目的に開発されたHPVワクチンは、世界80か国以上において公費助成による接種プログラムが実施されており、HPV感染率の低下と子宮頸部異形成の頻度が減少していることが報告されている。HPVワクチンの接種がもっとも普及しているオーストラリアでは、2028年には世界に先駆けて新規の子宮頸がん患者はほぼいなくなる(ごくまれながんになる)とのシミュレーションがなされている。HPVワクチンは日本においても2009年(平成21)に承認され、2013年からは小学6年~高校1年生相当の女子を対象とした「定期接種」の対象となっている。
[渡邊清高 2020年11月13日]