ティーチング・ポートフォリオ/アカデミック・ポートフォリオ

大学事典の解説

ティーチング・ポートフォリオ/アカデミック・ポートフォリオ

[成立]

多様な情報を有する書類等を運ぶ「紙挟み」がポートフォリオ語源である。ティーチング・ポートフォリオ(以下,TP)は,1980年代にカナダにおいて教育業績の適正な評価を目的とした教育活動可視化の方法である。その後北米に普及し,アメリカ合衆国では採用・昇進時あるいは終身在職権(テニュア)獲得の際の教育業績の評価資料として活用され定着している。欧州やオーストラリアなどでも同様に普及している。普及の背景には,大学教員の業績評価の方針が従来は論文数などをはじめとする研究偏重であったことに対し,教育についても研究と対等に評価を行う,しかも教育については「質」をみる必要性が学内外から起こってきたことに符合する。日本では1997年にTP概念が紹介されたが(杉本,1997),認知度が高まるのは2008年の中央教育審議会答申において多角的な教育業績評価資料の一例としてとりあげられて以降である。現在は,教育を重視するタイプの機関を中心に普及の途上にある。TPが教育活動に特化しているのに対して,アカデミック・ポートフォリオ(以下,AP)は研究,管理運営,社会貢献という大学教員の他の活動を含む総合的な資料である。

[ティーチング・ポートフォリオ]

TPは,教員が自身の教育活動についてエビデンス(根拠資料)を伴って作成する文書である。TPといってもその概念の幅は広く,ポートフォリオに含まれる情報の範囲に関わる「活動のすべてworking―厳選された情報representative」および公開の範囲に関わる「個人private―社会public」という2軸によって整理することができる。

 作成目的としては,①教育の改善(TP),②教育業績の評価資料,③優れた教育方法等,情報の共有手段,④優れた授業および教員等の社会への情報発信の四つが挙げられるが,とくに①に対しては,ポートフォリオの作成時に内省(reflection)を重視するタイプのTPが適している。セルディン,P.の提唱するTPは,深い内省を可能にする集中型のワークショップを推奨しており,とくにワークショップにおいて作成者を支援するメンターの存在を重視している(セルディン,2007)。日本で普及しつつあるのは,このタイプのTPである。以下,このタイプに基づいて説明する。

 TPは作成者本人の教育活動(TP)について,その責務(responsibility)の範囲,責務の範囲の教育活動を行う上での理念(philosophy),理念を具現化するための方法(methodology; strategy),教育方法を実践した結果としての活動の成果(outcome),今後の目標(goal)が一貫性を保って記述される。これらの5要素に基づいて,教育活動がもっとも適切に表現される目次構成を作成者自身が決定する。TPの作成には15~18時間ほどを要するが,2,3日間のワークショップによる集中的な作成がもっとも効率がよい。できあがったTPは8~10ページ程度の本文に,その記述を裏付ける多様なエビデンスが添付されたファイル様である。近年はICT技術の進歩によりウェブベースのe-ポートフォリオ・システムも増加しており,エビデンスとのリンクや,他者との共有や公開における効率性が高まっている。

 日本では教育改善を目的とした導入が主流であるため,ファカルティ・ディベロップメント・プログラムとして捉えられることが多く,新任教員研修の一部として組み込まれるなどの取組みが始まっている。いわば個人の内部質保証の仕組みとしての役割が期待される。業績評価を目的とした利用については,徐々に教員採用等でポートフォリオの提出を求める機関が増加しつつある。

[アカデミック・ポートフォリオ]

TPが教育活動に特化したポートフォリオであるのに対して,アカデミック・ポートフォリオ(AP)は,大学教授職の4領域である教育・研究・管理運営・社会貢献の全活動を対象として作成される(管理運営と社会貢献は「サービス」としてまとめられることもある)。ここではセルディンらの提唱するAPにしたがう。APもまたTPと同じ作成目的を持ち,16~20ページ程度の本文に根拠資料が添付される。構成として,4領域各々についての先述の5要素の一貫性を有した記述のほか,これら相互の寄与や統合的把握(integration),これまでの教員としての成果が含まれる点が特徴的である。APの作成により活動相互の関連に気づき,統一感をもって教員活動を俯瞰する視座を獲得する。
著者: 栗田佳代子

参考文献: 杉本「アメリカの大学におけるティーチング・ポートフォリオ活用の動向」『高等教育教授法の基礎的研究』(京都大学高等教育叢書2),京都大学高等教育教授システム開発センター,1997.

参考文献: ピーター・セルディン著,大学評価・学位授与機構監訳,栗田佳代子訳『大学教育を変える教育業績記録―ティーチング・ポートフォリオ作成の手引』玉川大学出版部,2007.

参考文献: ピーター・セルディン,J. エリザベス・ミラー著,大学評価・学位授与機構監訳,栗田佳代子訳『アカデミック・ポートフォリオ』玉川大学出版部,2009.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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