日本大百科全書(ニッポニカ) 「デカルボキシラーゼ」の意味・わかりやすい解説
デカルボキシラーゼ
でかるぼきしらーぜ
decarboxylase
カルボキシ基(カルボキシル基)をもつ有機化合物に作用して二酸化炭素を脱離する反応を触媒する酵素の総称で、脱炭酸酵素ともいう。2群に分けられ、一方はカルボキシリアーゼ(基質中のC-C結合やC-N結合などを開裂して2種の分解生成物を生ずる酵素。C-C結合とは炭素と炭素の共有結合、C-N結合は炭素と窒素の共有結合のこと)である。代表的なものに、ピルビン酸を脱炭酸(二酸化炭素を脱離する)するピルビン酸デカルボキシラーゼやアミノ酸の脱炭酸反応を触媒するアミノ酸デカルボキシラーゼがある。
ピルビン酸デカルボキシラーゼは、デカルボキシラーゼのうちでもっとも早く研究されたため、単にデカルボキシラーゼとよばれることもある。この酵素は酵母などアルコール発酵を行う微生物に存在し、ピルビン酸を脱炭酸してアセトアルデヒドと二酸化炭素に変える反応を触媒する。チアミンピロリン酸を補酵素とし、マグネシウムイオンを必要とする。
アミノ酸デカルボキシラーゼは、生物界に広く分布しており、アミノ酸の脱炭酸反応を触媒してアミンと二酸化炭素を生ずる。ピリドキサールリン酸を補酵素とする。L-チロシンデカルボキシラーゼ、L-トリプトファンデカルボキシラーゼというように、多くの場合、L-アミノ酸のα(アルファ)脱炭酸反応を触媒する。例外として、D-リシンデカルボキシラーゼとL-β(ベータ)-アスパラギン酸デカルボキシラーゼがある。なお、アミノ酸デカルボキシラーゼによる脱炭酸の結果生ずるアミンには、ヒスタミン(ヒスチジンデカルボキシラーゼ)、ドーパミン(チロシンデカルボキシラーゼ)、γ(ガンマ)-アミノ酪酸(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)など重要な化合物が多い。
第二の群は、酸化的脱炭酸反応を触媒する酵素群で、NAD+またはNADP+依存性の脱水素反応と同時に脱炭酸する。リンゴ酸デヒドロゲナーゼやイソクエン酸デヒドロゲナーゼなどがある。
[飯島道子]
『D・ヴォート、J・G・ヴォート著、田宮信雄他訳『ヴォート生化学』(1996・東京化学同人)』▽『八木達彦他編『酵素ハンドブック』第3版(2008・朝倉書店)』