日本大百科全書(ニッポニカ) 「デジタル計器」の意味・わかりやすい解説
デジタル計器
でじたるけいき
digital instrument
電圧や電流などのように連続的に変化する量(アナログ量)を目盛板と指針の振れで測定値を示す指示計器(アナログ計器)に対して、十進法による数字で不連続に表示する計器をいう。
一般に、デジタル計器は、交流の電圧や電流、直流の電圧、電流や抵抗などのアナログ量を直流電圧に変換する入力信号変換部と、その直流電圧を時間あるいは周波数に変換し、それを計数することによりデジタル量に変換するA/D変換部、そしてそのデジタル量を十進数により表示するデジタル表示部から構成されている。その代表例としてデジタルマルチメーターがある。
デジタル計器には、次のような特徴がある。
(1)測定値を最大で9桁(けた)の数字で表すことができるものもあり、指示計器に比べ高精度の測定が可能である。
(2)数字で表示するため個人差による読取り誤差が少ない。
(3)測定範囲の変更などを自動化(オートレンジ)できる。
(4)保護回路を組み込むことが容易にできるため、過電圧、過電流に対して強くすることができ、誤操作などによる破損を少なくできる。
(5)1台で電圧、電流、抵抗といったいろいろな物理量を測定できる機能をもたせることができる(デジタルマルチメーターの項参照)。
(6)測定値をデジタル信号で容易に取り出すことができるので、それを利用してデータの記録やコンピュータと接続して自動測定あるいは他の機器の制御にも応用できる。
デジタル計器の主要部は、アナログ量をデジタル量に変換するA/D変換器(analog-to-digital converter)である。その方式には比較方式、積分方式などがあるが、デジタル計器にもっとも多く用いられている方式は二重積分方式(デュアルスロープ方式)である。この方式は、まず積分器に測定電圧を入力し、あらかじめ設定してある時間だけ積分する。次に積分器の入力を測定電圧とは逆向きの内蔵の基準電圧に切り替えて積分し、積分器の出力電圧が初めの零電圧に戻るまでの時間を計ることによりデジタルに変換されるというものである。この積分方式は、積分時間で変換時間が決まるため、変換速度を早くすることはむずかしいが、時間の測定は高精度にできるため、高分解能で高精度のA/D変換器に使用されている。
電気量以外の物理量を測定できるデジタル計器もあり、そのもっとも日常的なものに電子秤(はかり)や電子体温計などがあるが、多くの場合、このような物理量はまず電気量に変換されてからデジタル化されるのが普通である。
[井上正博]
『津村栄一・宮崎登・菊池諒著『電気基礎 下』(1994・東京電機大学出版局)』