長さ,温度,圧力,電流などの量を測るのに用いる器具や装置の総称。日常生活で見られる計器には,体重計,水道のメーター,ガスのメーター,積算電力計,自動車のスピードメーター,燃料計などがある。これらは量を指示するものであるが,工場などで広く使用されている産業用の計器では,量を記録したり,警報を出したり,あるいは各種の装置と組み合わせて,温度や圧力などを希望の値に自動制御するものがある。ある物の長さを測るとき,それを見て触れる場合でも,人間の感覚は不正確なので,標準となるものさしを当てて比較することにより初めて個人差もなく正確に測れるのである。まして人間の目に見えず感電のおそれもある電気を測る場合は,その磁気や発熱現象などを利用した計器によらなければならない。現代の科学技術の進歩により,高度に発達した諸工業や交通,通信,電気,ガス,水道の諸機関においては,それぞれの必要に応じて各種の量を測り,正常に運転し制御するために多種多様の計器が使用されている。例えば石油から繊維やプラスチックを作る石油化学のプラントでは,各種成分,濃度,流量,液位,温度などの諸量が定められた値に維持されるよう自動制御されている。この点でこれらの計器は人間の感覚の延長としての役割を果たしているといえる。
一般の指示計器は〈目盛〉と〈指針〉で量を指示する。例えば5Aの電流計の場合,電流の大きさに応じて指針が振れ,5Aのときその最大目盛に一致するよう目盛定めされている。すなわち測ろうとする電流は指針の振れに変換され目盛の長さと比較して読み取られる。したがってこの目盛はちょうど長さを測る場合のものさしと同じ役割をしており,この意味で電流計は電流を測るものさしである。一方,計器の指示を直接数字で表すディジタル式のものがある。これに対して従来の目盛と指針により測定量を連続的に示すものをアナログ式という。
アナログ式の特徴は,(1)測定量の指示が連続的で増減の変化がわかりやすい,(2)比較的価格が低いことであり,ディジタル式の特徴は,(1)直接数字で表示されるため,読取誤差は人為的ミス以外はない,(2)測定しようとする量の変化に対し,指示の応答が速い,(3)桁数を増し高精度の測定の表示ができることである。
計器で測れる量は,計量法に掲げられている物理量と工業量の種類だけでも約80種に達するが,そのおもなものは次のとおりである。(1)機械および力学量 長さ,質量,時間,圧力,流量など。(2)熱 温度,熱量など。(3)光学 照度,輝度,波長など。(4)音響 周波数,波形,騒音レベルなど。(5)電磁気 電流,電圧,抵抗,起磁力,磁束密度など。これらの量は,人間の五官で感ずることができないもの,例えばX線,超音波,電流などや,月と地球の距離,ジェット機の速さ,原子力エネルギーなど五官の限度をはるかに超える量もある。そこで人間が量を測るためには,測ろうとする量に対し,それぞれのくふうをして,人間の五官,主として〈見る〉ことができるように変換する必要がある。例えば水銀温度計では,水銀の熱膨張を利用して温度を水銀柱の長さに変え,標準目盛と比較して温度を測る。また電流計では永久磁石によって作られる磁場の中に回転しうるコイルを支持し,そのコイルに流す電流によって生ずる電磁力を利用する。すなわちその電磁力を弾性ばねの偏位量とつり合わせ,その偏位を指針の振れに変換して,目盛と比較するのである。これらの例のように,測ろうとする量を長さや偏位のように測定に便利な他の量に変換する器具を変換器という。とくに最近ではさまざまの測定量を電気信号に変換する測定が広く用いられている。電気信号に変換する利点の第1は,微小エネルギーの測定量も増幅器によって指示や制御に適当なレベルの電気信号に変換することが容易なことである。また測定の精度も高くすることができる。第2は応答が速いことであり,信号を遠くまで伝えることも容易である。第3の利点は電気計器としては指示計,記録計から調節計まで,各種の系列がそろっていることで,測定しようとする量を,電気信号に変換しさえすれば,それらを測定量で目盛定めすることにより,自由に駆使できることである。さらにディジタル信号に変えるアナログ-ディジタル変換器を用いると測定値を数字で直接読むことができる。第4の利点はコンピューターと結ぶことができる点である。化学プラントなどで使用されている計装制御システムでは,各種の変換器により,温度,圧力,流量など必要な測定量を電気信号に変換し,コンピューターに結ぶことによって,制御,演算,通信など工場の主要な運転を自動的に行っている。
計器を使用する場合,一般的に要求される事項は,精度,感度や温度など環境条件による影響,強度(過負荷,耐電圧,振動,衝撃などに対するもの),指示の応答および耐ノイズ性などである。(1)精度 計器の指示の真値との差,すなわち誤差が小さいほど正確度が高いという。また一つの計器で同じ量を何回か測ったとき,指示のばらつきの小さい計器は精密であるという。この正確さと精密さを総合したものが精度である。ふつう計器の精度は計器の最大目盛値に対する百分率で表し,例えば±0.5%の精度の100mAの電流計は,その目盛範囲のどの指示に対しても起こりうる最大の誤差は0.5mAであることを意味する。計器は精度のよいものほど高価で機械的にじょうぶとはいえないので取扱いに注意を要し,目的に応じて適切なものを選ぶ必要がある。(2)感度 測定量の変化に応ずる指示量の変化の度合で,これが大きいほど感度が高いという。同じ目盛幅の計器では感度の高いほど測定範囲が小さくなる。そこでおもに研究用に使う多種測定範囲の計器では,感度の低いレンジ(測定範囲)から順次高いレンジへ切り替えて目的に合った感度のレンジを選ぶことができる。最近のディジタル計器では自動レンジ切替機能を有し,計器が自動的に適切な感度のレンジを選択するようになっている。とくに高感度の計器で計測する場合は,指示の応答時間が長かったり,目的とする測定量以外の電気的ノイズや,機械的振動などの影響を受けやすいので注意が必要。(3)温度など環境条件による影響 計器は使用される環境により,温度,湿度,外部磁場,使用位置などの影響を受ける。これらは,環境のよい研究室や中央制御室のような場所ではそれほど問題ではないが,屋外で使用するもの,例えば積算電力計や現場用指示調節計などの計器は,それらの使用条件に応じふつうの計器より広い使用温度範囲をもち,防滴または防水性,防塵性,耐食性などの耐候性が十分であるよう設計されていなければならない。(4)強度 強度には,測定量が計器の測定範囲を超えて計器に加わった場合の過負荷特性,輸送中または使用状態における機械的振動および衝撃がある。電気計器の場合には,さらに測定回路と補助電源や外箱との間の耐電圧と絶縁抵抗がある。車両用計器や例えばコンプレッサーのような回転機器の近くに常時取り付けられる計器に対しては,十分な耐振動強度が必要である。(5)指示の応答 計器に急に一定の入力を加えたとき,指示がその最終指示に対してある特定範囲(例えば±1.5%)以内に収まるまでの時間をいう。これは計器の動作原理や指示機構により異なる。温度計測のように測ろうとする量がゆっくり変化する場合はあまり問題にならないが,例えば変動しつつある量を記録する計器の場合は,真にその変動波形を記録しているか留意しなければならない。ふつう指針をもつ計器の応答時間は0.3秒から1.5秒くらいで,人の目の読取能力から見れば適当である。ディジタル計器の応答時間は,指示構造に機械部分がなく,技術的には瞬時的読取りが可能である。しかし測定入力に乗ってくる商用周波数成分のノイズの影響を除くくふうがされていて,ふつう0.02秒(50Hz地域)の整数倍に選んでいる。(6)耐ノイズ性 集積回路技術の進歩により,演算スピードが速くかつMOS型LSIのように微小電力で動作する半導体の開発普及が進み,現場にもマイクロコンピューターを用いた計器が使用されている。このため測定しようとする信号に重畳してくるふつうのノイズのほか,静電気によるノイズやトランシーバーなどの電波によるノイズが思わぬ計器の誤動作の原因となるケースが少なくない。これは簡単な指示計ではほとんど問題にならないが,エレクトロニクス回路が複雑なものほど,これらのノイズ対策に留意する必要がある。
計器の校正はより上位の標準器によって行われる。その標準器はさらに上位の標準器でというように次々と校正され,最上位の国家標準につながること,すなわちトレーサビリティがつねに確立していなければならない。このトレーサビリティによって計器はそれ自身標準器としてその測定値が国内はもちろん国際的に通用するのである。また計器は経年変化などにより時間の経過に伴って精度の変化を起こしうるので,計器の使用目的に応じ定期的に校正を行い,精度維持のための計測管理をする必要がある。
執筆者:米田 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
諸種の量を計る器具、機械の総称。用途や使用分野によって測定器、計量器、計測器、測量器などとよばれるが、とくに定義や境界があるわけではない。「日本工業規格(JIS(ジス))Z 8103計測用語」では、計器を「(a)測定量の値、物理的状態などを表示、指示又は記録する器具。(b)(a)で規定する器具で、調節、積算、警報などの機能を併せもつもの」と定義し、(a)の備考として「検出器、伝送器などを含めた器具全体を指す場合もあれば、表示、指示又は記録を担当する器具だけを指す場合もある」としている。「計量法」ではその第2条で次の72種の物象の状態の量をあげ、計量とはこれらの量を計ることで、計量器とは計量するための器具、機械または装置であると定義している。
すなわち、それらの量とは、長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度、角度、立体角、面積、体積、角速度、角加速度、速さ、加速度、周波数、回転速度、波数、密度、力、力のモーメント、圧力、応力、粘度、動粘度、仕事、工率、質量流量、流量、熱量、熱伝導率、比熱容量、エントロピー、電気量、電界の強さ、電圧、起電力、静電容量、磁界の強さ、起磁力、磁束密度、磁束、インダクタンス、電気抵抗、電気のコンダクタンス、インピーダンス、電力、無効電力、皮相電力、電力量、無効電力量、皮相電力量、電磁波の減衰量、電磁波の電力密度、放射強度、光束、輝度、照度、音響パワー、音圧レベル、振動加速度レベル、濃度、中性子放出率、放射能、吸収線量、吸収線量率、カーマ、カーマ率、照射線量、照射線量率、線量当量、線量当量率、である(2012年時点)。
これらの物象の状態量のすべてに計器が対応するものではないが、直接的あるいは間接的にこれらを計量する器具、機械または装置がある。また、一つの量に対してもきわめて多種類の計器がある。たとえば長さの計器には、直尺、巻尺、挟み尺(ノギス類)、マイクロメーター、ブロックゲージ、測長機などがあり、さらに干渉計やレーザー測距儀なども加わっている。その他の量についても同じことがいえる。
用途や分野についていえば、前記「計測用語」に工業計器、試験機および分析機器があり、工業計器は「工業計測を行うために用いる計測器」、試験機は「材料の物理的性質、又は製品の品質・性能を調べる装置」、分析機器は「物質の性質、構造、組成などを定性的、定量的に測定するための機械、器具又は装置」と定義されている。
これらの計器は、従来の概念では単品的な器具、あるいは一体となった機械であったが、計器の電子化、装置のシステム化に伴って、検出器、変換器、伝送器、受信器、指示器、記録器などの要素で構成されるようになってきている。これらの要素の定義は「計測用語」によると次のようになっている。
(1)検出器―ある現象の存在を検出する器具又は物質。必ずしも関連する量の値を与えるものではない。
(2)変換器―変換をするための器具又は物質。
(3)伝送器(発信器とあわせて)―検出器からの信号を伝送するため別の信号に変換する機能、又は信号の大きさを変える機能をもつ器具。
(4)受信器―伝送された信号を受け、指示、記録、警報などを行う器具。
(5)指示計器―測定量の値を指示する計器。検出器、伝送器などがあるときは、それらも含めた器具全体を指すこともある。
(6)記録計器―測定量の値を、自動的に記録する計器。検出器、伝送器などがあるときは、それらも含めた器具全体を指すこともある。
さらに計器のなかに調節計、積算計、警報の機能をもつものも含めている。調節計(自動調節計)は「量を自動的に調節する機能をもつ計器。備考:調節器ともいう。」、積算計器は「測定量の時間についての積分値を表す計器。検出器、伝送器などがあるときは、それらも含めた器具全体を指すこともある。備考:積算計又は積算器ともいう。」、警報とは「あらかじめ定めた状態になったとき、それについて注意を促すために信号を発すること又はその信号」である。
[小泉袈裟勝・今井秀孝]
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