狭義ではトルコ共和国の言語をさし,広義ではアジア大陸,ヨーロッパ大陸に広く分布するチュルク諸語をさす。トルコ語を母語とする者は,トルコ共和国に1990年現在で約5195万人(共和国の人口の約92%),ブルガリア,ルーマニア,ギリシア,旧ユーゴスラビアなどにも少数いる。また1960年代西ドイツの約200万人をはじめ,オランダ,サウジアラビアなどに多数のトルコ人が流入している。チュルク諸語のなかでは,アゼルバイジャン語,トルクメン語に近い。チュルク諸語のなかで目だつ言語的特徴は次のとおりである。(1)母音調和が厳密で,整然としている。例:inek〈雌牛〉,inekler〈雌牛ども〉,ineğim〈私の雌牛〉,ineklerden〈雌牛どもから〉;koyun〈羊〉,koyunlar〈羊ども〉,koyunum〈私の羊〉,koyunlardan〈羊どもから〉。(2)確実な過去と不確実な過去とを表現し分ける。-dı~-di~-du~-dü~-tı~-ti~-tu~-tü(これを-dV~-tVと表す。以下同じ)は前者,-mVşは後者を表す接辞である。例:Viski içtim.〈ウィスキーを私は確かに飲んだ〉,Viski içmişim.〈ウィスキーを私は飲んだらしい〉。(3)確実な非過去を表す接辞-(V)yorがある。例:Baş vekil geliyor.〈首相は必ず来ることになっている。首相は現に来つつある〉。(4)語彙のきわめて多くの部分を外来語が占めている。従来からアラビア語がきわめて多く(たとえばTürk Cumhuriyeti〈トルコ共和国〉のCumhuriyetはアラビア語,Türkと-iはトルコ語),ペルシア語もかなりあり,近代になってはフランス語が多く入っている(例:sinema〈映画〉,istasyon〈駅〉)。
トルコ語の歴史は,10~11世紀に小アジアへ移住したセルジューク族とオグズ族の言語(チュルク諸語の一つ)に始まり,14世紀以後のオスマン帝国時代の言語を経て,1923年,共和国の誕生とともにトルコ共和国語が確立した。オスマン帝国時代,とくに19世紀半ば以後トルコ共和国に至るまでの言語をオスマン語という。共和国語の特徴は,第1に,語彙が著しく変わったことで,ヨーロッパの近代文化とともにフランス語が借用され,一方,従来のアラビア語,ペルシア語からの借用語が追放されて古いチュルク語またはチュルク諸方言が採用されたり,新しい複合語が創作されたりした。このことがきわめて短期間に,しかも急激に,言語政策として実施された。たとえば,mektep〈学校〉というアラビア語の代りにokul〈学校〉というまったく新しい語が創作された。okulは,古代チュルク語にもチュルク諸方言にも見当たらない語で,oku-〈読む〉というトルコ語の語幹に-lという名詞を作る接辞をつけて創作した語である。フランス語のécole〈学校〉にも音形を似せたという説がある。トルコ共和国語の第2の特徴は,1928年アラビア文字正書法に替えてローマ字(ラテン文字)正書法を採用したことである。この文字改革は完全に成功した。
トルコ語内の方言差はあまり大きくない。イスタンブールおよびアンカラの都市方言を除くと,次の2群に分けることができる。(1)ドナウ方言:アドリアノープル(現,エディルネ),マケドニア,アダカレ(ルーマニア領のオルソバ),ボスニアなどに分布する。(2)アナトリア方言:カスタモヌ,アイディン,コニヤ,シワス,イズミル(すべてトルコ共和国領)などに分布する。
正書法の字母(大文字,小文字の順)と音価は次のとおりである。A,a[a];B,b[b];C,c[];Ç,ç[];D,d[d];E,e[e];F,f[f];G,g[ɡ][];ğ[][ː][j](toprağı[topra]〈土を〉,dağ[daː]〈山〉,öğle[œjle]〈正午〉);H,h[h][x];İ,i[i];I,ı[];J,j[ʒ];K,k[k][q];L,l[l][ɫ];M,m[m];N,n[n];O,o[o];Ö,ö[œ];P,p[p];R,r[ɹ];S,s[s];Ş,ş[ʃ];T,t[t];U,u[u];Ü,ü[y];V,v[w];Y,y[j];Z,z[z]。数詞は次のとおり。bir〈1〉,iki〈2〉,üç〈3〉,dört〈4〉,beş〈5〉,altı〈6〉,yedi〈7〉,sekiz〈8〉,dokuz〈9〉,on〈10〉,onbir〈11〉,yiğirmi〈20〉,otuz〈30〉,kırk〈40〉,elli〈50〉,altmış〈60〉,yetmiş〈70〉,seksen〈80〉,doksan〈90〉,yüz〈100〉,ikibin üçyüz kırkbeş〈2345〉。
→チュルク諸語
執筆者:柴田 武
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トルコ共和国(人口およそ6800万人)の言語。以前はオスマン・トルコ語とよばれ、トルコ系諸言語のなかの有力な一員である。トルコ系諸言語は東シベリアから中央アジア一帯に広く分布し、互いに親縁関係を有し、トルコ語族を形づくる。トルコ語は、その南方語派に属していて、アゼルバイジャン語などと近い関係にある。
トルコ共和国の成立(1923)後、それまで使っていたアラビア・ペルシア文字による表記法をやめ、1928年からローマ字による正書法を用いている。8個の母音(ぼいん)字と21の子音字は、よくトルコ語の音素を反映しているから、文字と発音を学ぶのに苦労が少なくてすむ。トルコ語には母音調和とよばれる母音配列の制限があり、とくに前舌母音i,ü,ö,eと後舌母音,u,o,aが対立する。たとえば、kedi「ネコ」の複数形はkedilerであるのに対し、koyun「ヒツジ」の複数形はkoyunlarのように、語形変化の全般にわたって母音調和の支配力が及ぶ。
トルコ語は形態のうえからいうと、典型的な膠着(こうちゃく)語である(日本語は膠着語とはいいがたい)。語形変化は、語幹に語尾や接尾辞(接頭辞はない)がいくつもつくことができ、しかもそれぞれの境目がはっきりしている膠着的手法によって行われる。不規則変化はきわめて少ない。たとえば、ev「家」は、evin「家の」、eve「家へ」、evi「家を」、evde「家で・に」、evden「家から・より」のように規則的に変化する。また、bildirilmediという語は、bil-(「知る」の語根。単独で使用すれば命令の「知れ」)、-dir「使役」、-il「受身」、-me「否定」、-di「完了」からなり、「知らせられなかった」を意味する。文の構造も日本語によく似ている。主語で始まり、述語(動詞)で終わる。修飾語は被修飾語に先だち、自立語は付属語に先だつ。目的語のあとに動詞がくるなどの諸点である。
[竹内和夫]
トルコ共和国の公用語。ギリシア領トラキア,ブルガリア,ボスニア,ルーマニア(ドブルジャとアダカレ島),アルバニア,キプロス島などでも使用される。オスマン帝国の公用語であったオスマン語は,トルコ語を基礎としていたが,語彙的にはアラビア語やペルシア語からの借用語が多かった。そのため,1928年11月ケマル・アタテュルクの文字改革で,自国語の表現に適さず,発音上不合理なアラビア文字を捨ててラテン文字に切り換え,外来語要素をできるだけ排除し,本来のトルコ語彙に置き換えるなど,幾度か改良を重ねて今日の形態ができあがった。
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…トルコ語などチュルク語族の諸言語,モンゴル語などモンゴル語族の諸言語,満州語などツングース語族の諸言語の総称。これらの諸言語が互いに親族関係にあってアルタイ語族をなすとの説が有力で,さらに朝鮮語や日本語をも含めた親族関係が問題にされることがある。…
…この際に語根と接辞は屈折語の場合に比べてその結合が緩やかであって,おのおのが自己の形式を常に保っており,両者が融合してしまうようなことはない。この特徴をよく示す例としてトルコ語や,アフリカのバントゥー諸語などがあげられる。例えばトルコ語の語形ülkelerinizdenはülke〈国〉に‐ler(複数),‐(i)niz〈君たちの〉(二人称複数所有形),‐den〈~から〉という三つの接尾的要素が膠着してできている形で,〈君たちの国々から〉の意味である。…
…このように〈複数〉の意味内容は言語によって異なるし,複数形のあらわれが一定の文法的・意味的条件によって制限されている場合もある。たとえば英語では可算名詞について2,3,4…等の数詞がつく場合,eight booksのように,必ずその名詞(book)は複数形(books)をとるが,トルコ語では数詞が先行する場合は複数を示す接尾辞を伴わないのが普通であり,sekiz kitapとなる(sekizは〈8〉,kitapは〈本〉。なおこれに複数接尾辞がつく場合は,kitaplarとなる)。…
…広い意味のトルコ語。狭い意味のトルコ語がトルコ共和国語をさすのに対して,トルコ共和国語を含めて,アジア大陸,ヨーロッパ大陸に広く分布する同族のトルコ系諸言語のすべてをさす。…
…しかし向格語尾〈…の方へ〉では,asztal‐hez〈テーブルの方へ〉,ajtó‐hoz〈ドアの方へ〉,tükör‐höz〈かがみの方へ〉と,非円唇用‐hez,円唇後舌用‐hoz,円唇前舌用‐hözと3種類が用意されていて,ここに非円唇と円唇という円唇性の規準が母音調和に加わっている。 アルタイ系のトルコ語の母音では,前舌性と円唇性の規準特徴が厳しく守られている。トルコ語は前舌非円唇/i,e/,前舌円唇/ö,ü/,後舌非円唇/ı[ɯ],a/,後舌円唇/o,u/の8母音をもっている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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