翻訳|trade-off
いくつかの政策目標をたてて経済政策がとられたときに,一つの政策目標を達成しようとすると,他の政策目標がうまくいかなくなったりすることが多い。たとえば,失業問題を解決しようとして景気拡大政策をとると,物価問題が深刻になったり,逆に,インフレーションを抑えようとして景気縮小政策をとると,失業の増大をみる。二つの政策目標あるいは経済的変量の間にこのような現象がみられるとき,一般にトレードオフの関係にあるという。トレードオフは二律背反と訳されることもある。
経済的諸変量の間にトレードオフがみられるのは,これらの諸変量は相互依存関係にあり,また希少資源は社会全体としてみたときに必ず希少なものであるからである。しかしトレードオフの関係が実際にどのようになっているかということは,経済的な諸制度,産業構造,さまざまな経済政策のあり方,国際的な諸条件などによって大きく左右される。現実の政策選定は,このようなトレードオフに関するさまざまな制約条件を考慮に入れながら最適なものを求めることになるが,そこでは単に経済的な状況に関する知識だけでなく,社会的価値判断が重要な役割を果たすことになる。
執筆者:宇沢 弘文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
経済的に両立しえない関係がみられ、一方を追求すると他方が犠牲になることをいう。たとえば、物価と失業率の対応関係を示すフィリップス曲線によると、物価上昇率が低いときには失業率は高くなり、失業率が低いときには物価上昇率は高くなる。P・A・サミュエルソンとR・M・ソローは、このフィリップス曲線をトレード・オフ曲線とよび、経済政策によって完全雇用を目ざせばインフレは避けられず、物価安定を目ざせば失業は避けられないと主張する。このような場合、完全雇用と物価安定はトレード・オフの関係にあるといわれる。
経済政策の目標には、完全雇用や物価安定のほかに、経済成長、社会資本の充実、所得と富の分配の改善、資源の有効な配分などがあるが、これらの目標の間にはしばしばトレード・オフの関係が生じる。たとえば、福祉政策を充実すれば増税となり、減税すれば福祉政策は後退する。このような場合には、両者についてのさまざまな制約条件を考慮してから、もっとも適切な妥協点を選択することが必要である。
[畑中康一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… ケインズの《一般理論》(1936)以降,完全雇用の状態とは,有効需要の創出によってこれ以上雇用と産出量を増加させることができず,それを超えて生産を行おうとするときインフレーションが発生するような総産出量が達成されている状態とみなされるようになった。しかし多くの国において,失業が存在するにもかかわらずインフレが生じ,インフレと失業との間にトレードオフ(二律背反)の関係,すなわちフィリップス曲線で表されるような関係がみられる。これらの経済には,上述したような最大の総産出量の存在は必ずしも明らかでなくなる。…
…以上の意味での完全雇用の達成と維持を第2次大戦後の政府の政策目標とすべきであるとし,完全雇用政策の名を高からしめたのは,W.H.ベバリッジの〈自由社会における完全雇用〉(1944)と題する報告であり,大戦後先進工業国はいずれも完全雇用の達成を政府の経済社会政策の中心目標の一つに据えることになった。
[失業率と物価上昇率間のトレードオフ関係]
こうして,1950‐60年代には,先進工業国では,世界的好況のせいもあって,完全雇用に近い状態が実現したといわれるが,この間物価水準が上昇し,雇用水準の維持という政策目標と物価安定という政策目標との間にトレードオフ(二律背反)の関係がみられ,注目されることになった。そこで,いま縦軸に物価上昇率をとり横軸に失業率をとると,両者の間には座標軸の交点に対して凹の負の非線型の曲線で表される関係があるとするフィリップス曲線をめぐって議論が展開されることになった。…
※「トレードオフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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