ドゴン族(読み)ドゴンぞく(その他表記)Dogon

改訂新版 世界大百科事典 「ドゴン族」の意味・わかりやすい解説

ドゴン族 (ドゴンぞく)
Dogon

西アフリカ,マリ共和国の中央部,バンディアガラ山地に住む農耕民で,人口約25万。バンディアガラ山地は500m前後の標高にもかかわらず,突起の多い花コウ岩質の山塊をなし,ニジェール川流域に面した側には断層が走り,急な断崖になっている。ドゴン族の村はこの台地上や下の平原に形成されるが,特異な景観をみせるのは断崖にへばりついた集落である。この地域は乾季雨季との区別が明確で,6月から10月にかけての雨季には,トウジンビエトウモロコシ,イネ,フォニオなどの主食用作物に加え,換金作物タマネギを栽培する。乾季になると水が欠乏し,井戸を掘り,人工の池を作って簡単な灌漑施設を設けている。村落は共通の祖先をもつ父系リネージからなる。そして数個の村が集まって一つの地域共同体を形成し,ホゴンと称する政治的・宗教権威を帯びた首長をいただいている。この首長のもとに仮面結社や年齢集団の組織が確立されている。

 ドゴン族は,その特有な仮面を用いた踊りでつとに知られている。乾季に入ると,ドゴンの祭りの季節が訪れる。祭りにはドゴン全体の先祖をたたえる祭り,クラン(氏族)のトーテムをまつる祭り,男子結社による仮面の祭りなどがあるが,なかでも最大のものが,60年に1度繰り広げられるシギの祭りである。この祭りはドゴンの神話に由来しており,祖先の霊力を宿す蛇の形に似せたイミナ・ナという大仮面が彫りあげられ,聖なる場所の洞窟に安置される。シギの祭りにかぎらず,ドゴンの祭りや儀礼はすべて,彼らの神話が象徴的に演じられる。踊りに登場する仮面は多種多様で,鳥などの動物,人間,そして首長の家までが仮面として登場する。祭りの日,仮面をつけた人々で村はあふれ,神話的世界が現出する。ドゴンは天地創造の神話をはじめとする,壮大な宇宙観,世界観をもち,西欧世界に衝撃を与えた。そして今日では,壮麗な仮面の踊りは観光客を招き,人々を魅了している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドゴン族」の意味・わかりやすい解説

ドゴン族
ドゴンぞく
Dogon

西アフリカのマリ中部の住民。ドゴン語はグル諸語に属するとされるが,定かではない。人口は約 60万人。平地ドゴン族とバンディアガラ山地に住む山地ドゴン族に分けられるが,生業はどちらも農業で粟,もろこし,稲などを栽培する。このほか金属,皮を扱う工芸職人が特殊な階層を形成している。一夫多妻制は認められているが単婚が多い。核家族が生活の基礎単位であるが,共通の祖先をもつ父系リニージ拡大家族が数個集って村を形成する。村がいくつか集って地域共同体をつくり,政治と宗教を統率するホゴンと称する首長を戴く。その下に,仮面結社や年齢集団の制度が確立されている。壮大で体系づけられた神話をもち,祭礼ではみごとな仮面舞踊を演じる。造形美術の制作にもすぐれている。

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世界大百科事典(旧版)内のドゴン族の言及

【仮装】より

… このような点は未開社会ではひじょうにはっきりとしている。アフリカでは祖先崇拝が発達しているが,ドゴン族(マリ),ジュクン族,ヨルバ族(いずれもナイジェリア)では仮装を伴った祖霊の祭りが行われる。ドゴン族では,60年に1度,現世の創始者となった祖霊を祭る大行事(シギの祭)が行われ,このとき長い仮面をつけ仮装した人間がその祖霊として登場する。…

【仮面】より

…しかし,具体的なものとして,儀礼や祭りに用いられる仮面の特徴は,日常生活とは異質な状況の中に〈出現〉してくる点にある。パプア・ニューギニアの諸族の〈精霊〉〈守護霊〉を表す仮面にせよ,アフリカ,リベリアのポロ結社やマリのドゴン族のアワ結社に代表される〈秘密結社〉の組織の核としての仮面にせよ,アマゾン地方のインディオの森にすむ獣の仮面にせよ,仮面は日常世界からは不可視の世界,他界あるいは霊界,人間の領域とは次元を異にする自然界,死者の世界からこの世界へと出現し,突出し,両者を媒介する中で,不可視のものを眼に見える姿で現出するという意味を担っている。仮面が出現する時,〈儀礼〉〈祭り〉は,同時に,その仮面の起源が反復される時でもあり,仮面を用いた祭礼の多くは,仮面の起源を再現する劇の構造を萌芽として含んでいる。…

【岩面画】より

…主題は,狩猟,漁労,牧畜の場面が多く,ときに抽象的図形や文字(サハラ)も表される。いずれも狩猟民または遊牧民の手になるもので,農耕民の制作した岩面画はきわめてまれである(そのまれな例は西アフリカのドゴン族)。【木村 重信】。…

【マリ】より

…マリ国内のマンデ諸族Mandeには,バンバラ族(166万),ソニンケ族Soninke(サラコレ族Sarakole)(42万),マリンケ族(30万),カソンケ族Khassonkeなどの農耕民や,交易に従事するデュラDyula商人が含まれる。そのほか,大西洋側語群,ボルタ語群など言語系統の異なる部族のなかで有力なのは,中部のニジェール川が形成する内陸デルタ地域に居住するフルベ(フラニ,プール)族(55万),南部に住むセヌフォ族(43万),東部のニジェール川の大湾曲部に住むソンガイ族(30万),バンディアガラ山地に住むドゴン族(24万),北部の砂漠を生活の舞台とするトゥアレグ族や,その南のサヘル地帯に住むモール族Maureなどである。 バンバラ族は人口が最大で,しかも首都のバマコの住民でもあり,国内で最も大きな勢力をもっている。…

※「ドゴン族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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