日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドバト」の意味・わかりやすい解説
ドバト
どばと
feral pigeon
[学] Columba livia var. domestica
鳥綱ハト目ハト科の鳥。野生のカワラバトの飼養品種の総称。イエバト(家鳩)ともいう。家禽(かきん)化の歴史は古く、紀元前3000年前のエジプトまでさかのぼるといわれ、インド、中国、ギリシア、ローマでも飼育された。飼育しやすく、繁殖力が旺盛(おうせい)で、長距離からの帰巣性がある。そのうえ肉が美味であるため、数多くの品種が知られている。一方、「平和のシンボル」として、「八幡(はちまん)様とハト」のように神のお使いとして人々に愛護されてきた歴史がある。利用目的からは、エリマキバト、尾羽を扇のように広げるクジャクバト、その鳴き声から名づけられたトランペッターなどの形や声を楽しむ観賞鳩(ばと)、ホワイトキング、ラントなどの食用鳩や、アントワープ、ホーマーなどの通信・運搬用の伝書鳩に分けられる。
カイバト(飼い鳩)は、ドバトのうち、人間の管理のもとで飼育されているものをさす。一方、管理下を離れ野外で生活するものは世界各地にみられ、日本では「土鳩(どばと)」「堂鳩(どばと)」とも書かれる。単にドバトと表記される場合、この意味で使用されることが一般的である。したがってドバトには、広義の意味でカワラバトの飼養品種の総称と、狭義の意味で野生生活をする個体をさす場合とがある。
国内にカワラバトが生息していたとの説もあったが、現在ではドバトが野生化したものとされている。明治以降、軍用に伝書鳩が本格的に渡来し、戦後はスポーツとして競技用の伝書鳩(レース鳩)がおもに輸入され、レースが各地で実施されている。食用鳩は、農家の副業として一時期、国内でも飼育されたことがある。
野生化したドバトは、世界の都市で種々の被害を発生させている。国内では近年「ドバト公害」ともよばれ、日常生活や衛生上あるいは産業上種々の弊害を発生させている。第二次世界大戦前までは、ごく限られた神社仏閣などに生息していたが、現在、都市部や農村部に広く分布するようになった。人間が与える餌(えさ)や、産業上生じる穀物をおもな餌とし、ビルなど高層建造物に営巣し、周年繁殖する。一腹卵数は2卵。一つがいで年間8回産卵することもある。行動範囲は狭く、餌場と就塒(しゅうじ)場(ねぐら)を中心に活動する。個体数が増加した背景には、戦後、空気銃の使用が禁止されたこと、レース鳩の野生化が著しいこと、営巣・就塒空間の増加、餌条件が良好なこと、天敵の減少、繁殖などの生理的特性、などが指摘されている。
[杉森文夫]