鳥綱ハト目ハト科のカワラバトColumba liviaをいろいろな目的のために家禽(かきん)化したものを一般にドバト(堂鳩)とよび、そのうち、方向感覚に優れ、長距離の飛行に耐える性質を改良して通信に利用する系統を伝書鳩という。第二次世界大戦直後までは軍用鳩ともいったが、1950年代以後は、有線および無線通信技術の発達によって実用的な意義はほとんどなくなり、おもに競技用に飼われるので、レース鳩racing pigeonということが多い。
初め中近東で飼いならされ、紀元前3000年ごろには、エジプトで漁船から漁況を知らせる通信に利用された記録がある。古代オリンピックが開催されるときには、ギリシアの各都市が用意して、競技の勝者の速報を入手した。ローマ帝国は、軍の連絡用に盛んに使った。普仏(ふふつ)戦争(1870~1871)ではフランス軍の360羽によって、延べ15万以上の通信が運ばれた。第二次世界大戦では、連合軍側が各地のレジスタンスにパラシュートで1万7000羽を送り込み、およそ2000羽が、通信をもたらした。足または背に軽量の筒を取り付け、その中に通信文や写真などを入れるのが普通であるが、普仏戦争では、通信文を書いた薄い布を尾羽に結び付ける方法を用いた。
巣、雛(ひな)およびつがいに執着して帰る性質を利用するのであるが、餌(えさ)を与える場所を別に決めてやると、その場所と巣の往復に利用できる。方向の定位は、近距離では地形や塔など目標物の記憶に頼り、遠距離では太陽などを目標とする天体航法、悪天候のときには地磁気によるコンパス航法も使う。国内のレースは、日本伝書鳩協会や日本鳩レース協会によって主催され、100~1500キロメートルまで各種ある。
[竹下信雄]
鳩舎(きゅうしゃ)は見晴らしのよい場所に設け、金網張りの部分を大きくとる。若鳥の場合は一度も舎外で飛んでいないものを求め、成鳥の場合は雛をかえさせるまで舎内で飼う。飼料は、トウモロコシ、コムギ、アサの実などからなる配合餌料(じりょう)を1日35~40グラム、塩土、水、青菜を与える。石膏(せっこう)製の皿巣を置くと、小枝を積んで産座とし、2卵を産む。雌が18日間抱卵し、雛は雌雄が鳩の乳(嗉嚢(そのう)の内壁が肥厚してはげ落ちたものが主成分である)を口移しに与えて育てる。約20日間で巣立ちし、3か月で成熟する。
[竹下信雄]
鳥綱ハト目ハト科のカワラバトColumba liviaが,方向感覚,帰巣性に優れ,長距離飛行の能力が高く,また飼養が容易なことに着目して,通信に利用するため家禽(かきん)化したものをいう。第2次世界大戦直後までは軍用に多用されたので軍用鳩とも呼ばれた。しかし無線などの通信技術の発達により,しだいに実用上の意義を失った。新聞社による写真フィルム運搬には最後まで利用されたが,1950年代以降はおもに愛好者の競技用に飼われ,レース鳩racing pigeonということが多い。遠方に運ばれたハトは,自分の巣や雛,つがいの相手に対する強い執着のために帰巣する。通信に用いる場合は,脚か背に軽量の筒をつけ,その中に通信文などを入れて運ばせる。
歴史は古く,前3000年ころ,エジプトの漁船が漁況を港に知らせるために利用した記録があり,中近東ではそれ以前から使われていたらしい。古代オリンピックの優勝者を知らせるためにギリシアの各ポリスが用い,またローマ帝国は軍隊の通信用に多用した。第2次大戦では,連合軍側が渡洋攻撃をする爆撃機に積み,ハトが戻ると機が不時着したものとして乗員の捜索を始めたり,パラシュートで降下させてレジスタンスからの送信に利用したり,大いに活用した。
東京に日本伝書鳩協会と日本鳩レース協会があり,100~1500kmの各種のレースを主催している。
執筆者:竹下 信雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…9~10世紀のアラブの地理書によれば,これらの駅舎は全国で930余を数えたという。交通手段として一般にイランではラバが,西方のアラブ地域ではラクダが用いられ,危急の場合には馬や伝書バトが利用された。これらの施設の使用は公的な任務を帯びる者に限られたが,バリード網の整備は旅の安全性を高め,民間の商業活動を促進する大きな要因となった。…
※「伝書鳩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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