改訂新版 世界大百科事典 「ナワ」の意味・わかりやすい解説
ナワ
Nahua
アステカの言語であったナワトル語に属する各種方言を話す現代メキシコ最大のインディオ集団。人口102万(1977)ともいわれるが,5歳以上でナワトル語のみを話す人に限ると約30万である。おもにサン・ルイス・ポトシ,イダルゴ,プエブラ,連邦区,トラスカラ,モレロス,ゲレロ,ベラクルスの各州に分布する。少数ながらハリスコ,ミチョアカン,ナヤリト,オアハカ,タバスコの各州にも住む。スペイン語を使わずナワトル語のみを話す人口はプエブラ州に集中している。現代の分布圏は上記のようであるが,19世紀にはグアテマラやニカラグアにも分布していた。現在,メキシコ以外ではエルサルバドルのピピル(族)のみがナワトル語を保持している。
経済生活をみると,トウモロコシ,フリホル豆,トウガラシ,トマト,カボチャを栽培し,焼畑耕作も山地で行う。リュウゼツランからプルケをつくり,サトウキビ,米,コーヒーも生産する。定期市が発達し,村々を結んでいる。家族は親と子の2世代家族が一般的であるが,祖父母を含む3世代家族も多く,広い双系親族のつながりをもっている。均分相続が原則とはいえ,土地所有も少なく,農業技術の低さから生産量に恵まれず,エヒードも効果的に機能しないので,出稼ぎで都市に流出する人口は多い。家族,親族に次いで重要なのはコンパドラスゴと呼ばれる擬制親族で,カトリックの秘跡(洗礼,堅信礼,聖体拝領,結婚)を契機につくられる。村落の組織をみると,中央部はバリオbarrio(〈地区〉の意)に分割され,外婚単位となる場合もあり,アステカ時代のカルプリ(外婚的父系氏族)との関連も指摘されている。村には数々の行政・宗教職があり,年齢序列や富の差により役職が決まる。祭りを主催するマヨルドーモmayordomoは行政・宗教組織のかなめになり,村内の威信を集める。宗教面では土着の自然観が生きつづけているが,同時にカトリックの聖人・聖女が信仰の対象となっている。なかでもアステカの地母神トナンツィンに由来するグアダルーペの聖母への崇拝は普遍的である。オトミー(族)の神に由来するチャルマのキリストも崇拝を集め,グアダルーペに次ぐ大巡礼地となっている。アイレ(空気),エスパント(驚き),マル・オッホ(邪視),ムイナ(怒り)から起こる病気治しには各種の呪医がおり,治療法には土着とスペインの習俗の混交がみられる。年中行事としてはカーニバル,復活祭,十字架の祭り,守護聖人の祭り,万霊節,役職者の行事,クリスマス,新年の祝い等がある。カーニバルはテポストランとウエホチンゴのものが有名である。芸能面では,アステカに由来するボラドール,ムーア人とキリスト教徒,ロス・ネグリトス,ロス・サンチアゴス等のダンスがある。祭りに使われる仮面はゲレロ州で発達しており,その図像にはアステカとスペイン的なるものの興味深い混交がみられる。工芸品では織物,リュウゼツランの繊維製品,陶器等がある。近年,とくに1960年以降,経済変動や政府のインディオ社会発展政策の影響をうけて,数々の変化が村々に起こりつつある。
執筆者:黒田 悦子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報